2025.06.11
従業員が自らのキャリアを主体的に考え、行動できるよう支援する「キャリア研修」を導入する企業が増えています。
キャリア研修は、単なるスキル向上を目的とした施策ではなく、従業員の自発性やモチベーションを高め、組織全体の活性化につなげる取り組みとして注目されています。
また、従業員の意欲や生産性が向上することで、離職率の低下やチーム力の強化といった効果も期待でき、企業の持続的な成長に貢献する取り組みです。
本記事では、キャリア研修が注目される背景や導入によるメリット、さらに若手社員、女性、シニア層といった多様な立場・年代別の事例について紹介します。
キャリア研修とは、従業員が自らのキャリアを主体的に考え、実現に向けた行動ができるよう支援するための研修です。
これまでの経験やスキルを振り返り、自己理解を深めるとともに「自分が将来どうなりたいか」というビジョンを明確にし、キャリアプランや行動計画を立てていきます。
研修の中では、自身の強みや不足しているスキルを客観的に見つめ直し、必要な能力や経験を整理する過程も含まれています。
また、個人が大切にしたい価値観や、周囲から求められている役割についても掘り下げ、自律的なキャリア形成に必要な視点を養います。
キャリア研修は「キャリアデザイン研修」と呼ばれることもあります。
従業員が主体的にキャリアを切り拓くことで一人ひとりのエンゲージメントを高めることができる、企業と従業員の双方にとって意義のある取り組みです。
出典:厚生労働省「働きがいのある職場づくりのために 」
現代の日本において、キャリア研修が注目されている背景には、終身雇用制度の見直しと働き方の多様化が大きく影響しています。
ここでは、この点に着目して解説します。
終身雇用制度は、企業が従業員を定年まで雇用し続けることを前提とした、日本特有の雇用慣行です。
かつては年功序列とともに広く浸透していましたが、近年では成果主義や実力主義を取り入れる企業もあり、雇用のあり方は大きく変化しています。
この変化により、従業員が自らキャリアを設計し、成長し続けることが求められるようになりました。
企業にとっても、環境変化に柔軟に対応できる自律的な人材の育成が重要課題となっています。
そのような背景から注目されているのがキャリア研修です。
従業員が主体的にキャリアを見直し、行動に移す力を育てることで、企業にとっても実力のある人材の定着や組織力の向上といったメリットが期待できるため、多くの企業で導入が進んでいます 。
出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「第2章 成果主義の現実 」
「企業のキャリア形成支援施策導入に おける現状と課題 」
終身雇用制度の見直しが進む中で、従業員の働き方に対する意識も変化しています。
かつてはひとつの企業で定年まで勤め上げることが一般的とされていましたが、今ではスキルアップやライフスタイルの変化を背景に、転職を前向きに選択する人が増えています。
厚生労働省が令和6年10月に発表した調査によると、令和3年3月に卒業した新規学卒就職者の3年以内の離職率は、新規高卒就職者が38.4%(前年度比1.4ポイント増)、新規大学卒就職者が34.9%(同2.6ポイント増)と、いずれも上昇傾向にあります。
ある調査では、前職の勤続年数が1年未満で転職した人が20%を超え、早期退職を「自分のキャリアにとってプラスになる」と考える人が40%を超えるなど、キャリア観の変化がうかがえます。
このような背景を受けて、企業では採用した人材の早期離職を防ぎ、自社内でのキャリア形成を後押しする取り組みが重視され、その手段のひとつとして、キャリア研修の導入が広がっています 。
従業員に「この会社で成長していける」と感じてもらうには、個人の将来ビジョンと企業の方向性を結びつける支援をしていく必要があります。
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者) 」
厚生労働省が公表した令和5年度「能力開発基本調査」によると、従業員に対してキャリアコンサルティングを行う仕組みを導入している事業所は約4割にとどまります 。
導入している企業の主な目的 は、「労働者の仕事に対する意識を高め、職場の活性化を図るため」「労働者の自己啓発を促すため」などが挙げられており、キャリア支援を通じた組織活性化を期待している様子がうかがえます。
一方で「キャリアコンサルティングの効果が見えづらい 」という声も少なくありません。
定性的な変化や長期的なスキル育成を扱う性質上、成果が数字で測りにくいという課題があります。
しかしながら、従業員の意欲向上や離職率低下に貢献する可能性も高く、キャリアコンサルティングを包括するキャリア研修をいかに運用するかが、企業の重要な課題になっています。
出典:厚生労働省「令和5年度 能力開発基本調査 」
厚生労働省「調査結果の概要 1 企業調査 」
厚生労働省が実施した令和5年度「能力開発基本調査」の調査結果の概要によると、キャリアコンサルティング(キャリア研修を含む)を導入した事業所 では、労働者の意欲向上や人事管理制度の整備、若年層の定着率向上などの効果が得られたと報告されています 。
ここでは、調査結果を基にキャリア研修によって得られる主なメリットをご紹介します。
出典:厚生労働省「令和5年度 能力開発基本調査 調査結果の概要 」
キャリア研修を実施した企業からは「労働者の仕事への意欲が高まった」「自己啓発に取り組む従業員が増えた」といった声が多く寄せられています。
研修を通じて将来の目標やキャリアの方向性が明確になると、日々の業務に対する意識が変わり、前向きな姿勢が生まれやすくなります。
従業員が自律的にキャリアを考えるようになることで、仕事の意義を再認識し、自ら学ぶ姿勢も高まります。
自身に不足しているスキルや経験を把握しやすくなるため、必要な知識や能力を自らの意思で習得しようとする行動につながりやすくなります。
こうした変化は、従業員の主体性を高め、組織全体の生産性向上や活性化にもつながります。
結果として、企業の持続的な成長を後押しする効果が期待できます。
出典:厚生労働省「働きがいのある職場づくりのために 」
厚生労働省「調査結果の概要 1 企業調査 」
キャリア研修やキャリアコンサルティングを定期的に実施することで、企業は従業員一人ひとりのキャリア志向や、スキルアップに対する意向を把握しやすくなります。
これにより、配属や昇進などの人事判断に従業員の希望や強みを反映しやすくなり、適材適所の実現やモチベーション維持につながります 。
また、キャリア形成への意識が高まることで、従業員の定着率向上や組織の活性化も期待できます。キャリアコンサルタントが従業員の声を経営層にフィードバックすることにより、職場環境の改善や人事制度の見直しにもつながります。
このように、キャリア研修は企業と従業員の意見をすり合わせる場として機能し、人材活用の最適化と組織の発展に直結する施策といえます。
出典:厚生労働省「資料4 キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタントの現状 」
厚生労働省「 1 組織への働きかけ 」
キャリア研修の効果として「新入社員・若年労働者の定着率が向上した」という声も挙がっています。
若手社員がキャリア研修を受けることで、自身のキャリアと企業のビジョンのつながりを理解しやすくなり「この会社でどのように成長できるか」を具体的に描けるようになります。
目標達成のための道筋や計画である、将来のキャリアパスをイメージできるようになると、漠然とした不安が減り、安易な転職に走るリスクを下げ、自己成長への意欲を維持しやすくなります。
また、同世代の従業員が集まり研修を受けることで、共通の悩みや課題を共有し合い、職場への安心感や一体感が生まれやすくなります。
一部の企業では、キャリア研修によって転職希望者が増えるのではないかと懸念されることもありますが、実際には、自己成長への意欲とともに会社への愛着が高まる傾向があります。
こうした変化は、企業にとっても安定した組織運営に貢献する要素となり得ます。
出典:厚生労働省「調査結果の概要 1 企業調査 」
「若年労働者のキャリア自立志向と職場定着率:キャリア支援策は「諸刃の剣」か? 」
実際の研修では、年代や役職、ライフステージに応じた多様なプログラムが用意されています。ここでは、役職・役割ごとのキャリア研修と女性向けのキャリア研修についてご紹介します。
厚生労働省は、年齢やキャリアの節目ごとに研修や面談を行う仕組み「セルフ・キャリアドッグ」を推奨しています。
これは、個人のキャリア形成を継続的に支援する仕組みであり、企業にとっても組織の活性化や人材定着の施策としても効果が期待されています。
たとえば、入社3年前後の若年層には、キャリア開発の重要性や今後の方向性を考える研修を通じて「何を目指し、どのように成長していきたいか」を早期に自覚させることで、職場定着率の向上や意欲の維持につながります。
勤続5年前後の中堅層には、マネジメントスキルの習得やリーダーシップ強化を含めた高度なキャリア形成支援が求められ、管理職に昇進する段階では、組織全体を見渡す視点と、個人のキャリアと会社のビジョンを統合する視野が求められます。
また、55歳以降のシニア層には、これまでの経験を整理し、新たな目標を設定する「セカンドキャリア」研修が行われるケースもあります。
このようにセルフ・キャリアドッグは、従業員一人ひとりのタイミングに合わせた支援を通じて、個人の成長と組織の持続的発展を両立させる枠組みとして注目されています。
組織と個人の協働領域を広げ、長期的な定着やスムーズな世代交代にもつながることが期待されています。
出典:厚生労働省「企業・学校等においてキャリア形成支援に取り組みたい方へ 」
厚生労働省「セルフ・キャリアドック導入支援事業 最終報告書 」
女性の正規雇用比率は若年層を中心に上昇傾向にあり、育児休業を利用して就業を継続する割合も増加しています。
これに伴い、結婚・出産・子育てといったライフイベントを前提にキャリアを築いていくニーズが高まっています。こうした背景から、女性向けキャリア研修では、ライフステージごとの課題に対応したプログラムが導入されています。
たとえば「仕事と育児をどう両立するか」「キャリアの中断をどう乗り越えるか」といった、実生活に根ざしたテーマが多く取り上げられます。また「キャリアアップの意欲があっても、周囲の理解が得にくい」といった状況にも着目し、リーダーシップの開発や中長期的なキャリアビジョンの形成を支援する内容も含まれています。
女性が長期的に戦力として活躍できるようにするためには、本人の努力だけでなく、上司や同僚の理解・支援体制も必要です。女性向けキャリア研修を通じて、組織全体がその認識を共有することができれば、離職率の低下や多様な人材の活用にも効果が期待できます。
出典:厚生労働省「令和6年版 労働経済の分析 概要 」
キャリア研修は、従業員が自身の将来像を明確にし、その実現に向けて主体的に行動する意識を育む機会になります。目標や役割を具体的に描けるようになることで、働く意欲や自律性が高まり、日々の業務への姿勢にも良い変化が生まれます。
企業にとっても、キャリア研修は若手・シニア・女性といった多様な人材が長く活躍できる環境づくりに役立ちます。多様な価値観を尊重し合える組織は職場の雰囲気を良くするだけではなく、人材の定着や組織の安定化にも効果が期待できます。
フェムナレッジでは、従業員同士の相互理解を促す研修動画を提供し、性別や世代を問わず、誰もが働きやすく、力を発揮できる職場づくりを支援しています。ぜひ、フェムナレッジのサービスをご活用ください。
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