2025.06.11
人事領域でデータ分析を活用し、採用や離職対策などを最適化しようとする企業が増えています。
これを背景に、従業員や組織に関するデータをもとに人事施策を検討・改善する手法として「ピープルアナリティクス(People Analytics)」が注目されています。
本記事では、その概要から活用例、導入フローや課題を整理し、自社で実践するためのポイントを解説します。
ピープルアナリティクスとは、企業が保有する人材データや組織情報などを分析し、人事の意思決定や施策立案に活用する手法を指します。
採用や人材配置、育成、離職対策などを従来の経験や勘に頼るのではなく、データに基づいて客観的かつ戦略的に行い最適な施策につなげる ことが目的です。
一般的なタレントマネジメントが人材の適正配置や育成を主眼とするのに対し、ピープルアナリティクスは組織全体の課題解決やパフォーマンス向上を目的として、広範なデータ分析を行い ます。
データに基づいた戦略的な人事施策を立案し、組織の競争力向上を目指します。
ここでは、人材や組織データの分析手法としてピープルアナリティクスへの注目度が高まっている背景について、DXの広がりと人的資本開示の義務化の視点からご紹介します。
現在、日本全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させようという動きが活発化しています。
IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2024」によると、2023年時点でDXに取り組む企業は7割を超え、 一部の部門のみで試験的にDXを実践している企業もあります 。
これまでのDXは、業務効率化やペーパーレス化などの基盤整備に取り組むことが中心でしたが、今後は、より高度な分析やデータに基づいて人事施策を推進することが求められています。
人事領域においても、採用・配置・評価などにかかわるデータを積極的に活用し、離職リスクの低減や人材育成の効率化といった成果を狙う必要性が認識されつつあります。
こうした流れの中で、人事部門でもデータ分析を取り入れるピープルアナリティクスが注目され、採用戦略から組織運営までをデータに基づいて最適化するアプローチが期待を集めています 。
出典:独立行政法人 情報処理推進機構「DX動向2024 」
ある調査によれば、人事部門におけるDXの取り組みは進みつつあるものの、実際にはペーパーレス化や人事・給与システムの更新といった基本的なデジタル化が中心となっているケースが多いとされています。
データ分析による高度な人事戦略の立案や、人材マネジメントといった側面でのDXは進んでいないのが現状です。
DXが思うように進まない背景には、分析手法や統計に関する知識を持つ専門家の不足も要因として挙げられます。
データを経営視点で活用するには、現場から収集されるデータを適切に扱い、デジタル人材の育成や外部リソースの活用を推進するための知識が必要です。
2023年3月期決算以降、有価証券報告書を提出する企業には、人的資本に関する情報開示が義務化されました。
これは財務指標にとどまらず、人材育成方針や社内環境整備の方針、それに関する測定可能な指標・目標・進捗状況を記載し、経営戦略と結びつけた形で「人材をいかに活かしているか」を説明することが求められています。
離職率、教育投資、ダイバーシティといった従業員に関する詳細なデータが開示されることで、投資家や社会からの評価も一層高まるでしょう。
そのため、これらのデータをどのように管理し、経営判断にどう活用するかが、企業にとって今後の重要な課題となります。
その際、ピープルアナリティクスを活用することで、人事関連データを体系的に可視化し、組織の課題を抽出するとともに、適切な改善策を打ち出すことが可能です。
人的資本の開示義務化は、企業にとって人事戦略を再定義し、データを活用する大きなきっかけとなっています。
出典:金融庁「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等 」
ある調査によると、ピープルアナリティクス市場は2037年までに50億ドル規模に達すると予想されています。
5年前までは、人事戦略においてピープルアナリティクスを優先度の高い施策と捉える企業は1割程度でしたが、現在では組織の7割以上が重要な手法として認識し、積極的に導入を検討しています。
背景には、DX推進によるデータ活用意識の高まりや人的資本開示の義務化のほかにも、少子高齢化などに伴う、人材確保の必要性が増していることが挙げられます。
従業員一人ひとりのスキルや志向性を正確に把握し、最適な配置や育成プランを策定するためには、蓄積された人材データを戦略的に活用することが求められます。
こうした流れからピープルアナリティクスの優先度が高まり、今後もさらに普及が進むと見込まれています。
ピープルアナリティクスの具体的な活用例としては、自社に必要な人材像や適正な人員規模を分析し、採用基準を明確にすることで、採用フローの離脱ポイントを把握しやすくなります。これは、選考プロセスの見直しにも役立ちます。
いまいる従業員においては、個々のスキルや志向を可視化して適切に配置・育成・支援することで、各自の能力を引き出しやすくなります。
また、メンタル不調や離職の兆候早期に把握して適切な支援を行えば、人材の定着を図れます。
こうした取り組みによって、従業員の満足度や業務への意欲が高まり、結果として組織全体の生産性や企業価値の向上が期待できます。
ピープルアナリティクスを実践するには、あらかじめ導入の目的や必要なデータ、分析手法を明確にし、段階的に取り組む必要があります。
以下のステップを参考に、導入を進めてみてください。
ピープルアナリティクスを導入する際にまず行うべきことは、「何を解決したいのか」という目的を明確にすることです。
単にデータを収集・分析するだけでは、有効な施策や意思決定には結びつかないため、まずは企業が人事面で抱える課題を明確にし、それに対して必要なデータを整理することが重要です。
たとえば「離職率の低下」「採用の質の向上」「従業員エンゲージメントの強化」といった具体的な目標を設定することで、ピープルアナリティクスが目標の達成に適しているかを判断でき、必要なデータや分析の方向性も明確になります。
次に、その目的に沿ったデータを選定・収集することが重要です。
企業によっては、人事・給与システム、勤怠管理、評価・研修記録など、関連情報が複数のシステムに分散している場合は、人事部門のみならず各部署の協力も必要になります。
データの保管場所、更新担当者や更新頻度を事前に定めておくことで、データ管理の効率性を確保できます。
まずは比較的収集しやすい人材データや勤務データなどから始め、段階的に整備していくと良いでしょう。
次に、収集したデータを、統計手法や機械学習などを用いて分析し、人事課題の要因や改善策を導き出します。
たとえば、労働環境や評価制度、人間関係などの 従業員の離職率に影響する要素を検証したり、パフォーマンス向上に効果的な研修プログラムを特定したりするなど、必要に応じてデータを柔軟に組み合わせ、多面的な分析が求められます。
こうした分析には、人事システムから取得できる定量データに加え、従業員のやる気や価値観といった定性的な情報もアンケートや対話を通じて把握する必要があります。
ただし、分析結果をそのまま鵜呑みにせず、本人の志向や考えなど、データでは捉えきれない部分も踏まえたうえで判断することも求められます。
最終的には、データを参考にしつつ、対話による理解を重ねて意思決定を行う姿勢が求められます。また、分析結果は関係者にとって分かりやすく、根拠のあるデータを提示するなど 納得感のある形で共有するとよいでしょう。
データ分析によって得られた結果をもとに、人事制度の見直しや新たな研修プログラムの導入など、具体的な施策を実行します。
その際は、施策の責任者や実施日程(期限)、KPI(評価指標)を明確に設定し、実施後も継続的に成果をモニタリングすることが求められます。
また、施策の効果検証によって得られた結果も新たなデータとして蓄積され、次の分析や施策立案に活用できます。
ピープルアナリティクスは一度で完結するものではなく、継続的な見直しと改善を重ねることで、その精度と効果を高めていくことが重要です。
ピープルアナリティクスには多くのメリットがありますが、導入と運用においては人材データの管理や専門家不足などの課題が存在します。
以下で主要な課題と対策をご紹介します。
ピープルアナリティクスでは、従業員の評価情報や健康状態、キャリア志向などの人材データを取り扱います。リスクを把握し、その取り扱いには十分注意し、プライバシーとセキュリティの確保が求められます。
また、データ収集の目的や利用範囲を明確にしたプライバシーポリシーを策定し、従業員に周知する必要があります。加えて、アクセス権限の設定やデータ保存のルールを管理し、社内外のガイドラインや関連法令を遵守します。
従業員が安心してデータを提供できるよう、透明性のある運用体制を整えるとともに、必要最小限の情報のみを扱う仕組みづくりが求められます。
IPAが公表した「DX動向2024」によると、従業員数が「101人以上300人以下」および「301人以上1,000人以下」の企業では、デジタル人材が「大幅に不足している」と回答した割合が約6割にのぼるとされています。
ピープルアナリティクスの導入には、統計学や機械学習などのデータ分析スキルに加え 、人事の実務経験を持つ人材が求められます。
しかし、こうした複合的スキルを持つ人材は限られているのが現状です。
そのため、自社で専門家を育成するか、統計や分析、データ管理を行う外部企業と連携するなどの対応が必要になるでしょう。
出典:独立行政法人 情報処理推進機構「DX動向2024 」
ピープルアナリティクスは人事課題の解決に大きな効果をもたらす手法として注目され、DX推進や人的資本開示の義務化を背景に需要がさらに高まっています。
一方、個人情報の保護の観点から厳格なデータ管理を行う必要もあり、さらに専門人材の確保という課題もあります。
フェムナレッジサイトでは、ヘルスケアに関する動画やコラムが充実しており、DXを推進していくうえでの基礎知識を学ぶことができます。
ぜひ自社のピープルアナリティクスを検討するとともに、フェムナレッジの利用で従業員の満足度を高めていきましょう。
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