2025.01.22
会社には、従業員に対して健康診断を実施する義務があります。健康診断の目的や、実施の時期、健康診断の種類についてご紹介します。
健康診断は、常時使用する労働者(従業員)の健康状態を把握して、生活習慣病等の悪化防止・脳や心臓疾患の発症予防などを目的に、事業者に対して義務付けられています。企業側の義務とされているのは、労働者の健康や安全を守る「安全配慮義務」を課されているためです。
健康診断を実施して自身の健康状態を把握し、労働時間やストレス、職場環境の問題を解決するなど、適切な対応に繋げましょう。
健康診断のタイミングや回数も、労働安全衛生法により定められています。
常時使用する労働者を雇入れる際には、従業員の健康状態を把握して業務に支障がないか確認するために、雇入れ時健康診断を実施する必要があります。実施の時期について明確には定められていませんが、雇用開始から3か月以内におこなうことが推奨されています。
【対象者】
• 契約期間の定めがない労働者(正社員)
• 契約期間が1年以上の労働者
• 契約の更新により1年以上使用される予定の労働者
(特定業務従事者は6か月以上)
出典:定期健康診断等について(厚生労働省)(2024年12月27日利用)
常時使用する従業員に対して、健康状態に関わらず、年1回の定期健康診断の実施が必須です。項目も定められていますが、医師の判断の元に、一部を省略することが認められています。
(省略できる項目:身長・腹囲・胸部X線検査・喀痰(かくたん)検査・血液検査・心電図検査)
「労働安全衛生規則」第45条に定められている特定業務に従事する従業員の場合は、6か月に1回の特殊健康診断が義務付けられています。
【特定業務の一例】
• 有害物質を取り扱う業務
• 寒冷または暑熱な環境での業務
• 深夜業務
など
特殊健康診断とは、「労働安全衛生法」第66条第2項・第3項によって定められた有害とされる業務に従事する労働者、また特定の物質を取り扱う労働者を対象とした健康診断のことです。
【特殊健康診断に指定されている業務】
1. 高気圧業務
2. 放射線業務
3. 除染等業務
4. 特定化学物質業務
5. 石綿業務
6. 鉛業務
7. 有機溶剤業務
8. 四アルキル鉛業務
なお、これらのうち、一定の特定化学物質業務や石綿業務などについては、それらの業務に従事しなくなった場合でも実施しなければなりません。また、情報機器作業(VDT作業)や振動業務などにおいては、特殊健康診断の実施が指導勧奨されています。
これらの他に、業務内容などにより、おこなわなければならない健康診断には、以下のものがあります。
• 海外派遣労働者の健康診断:海外に6月以上派遣する労働者に対して
• 給食従業員の検便
• 歯科医師による健康診断:塩酸、硝酸、硫酸などを発散する場所における業務をおこなう労働者に対して
• じん肺健診:常時粉じん作業に従事させる労働者に対して(「じん肺法」)
出典:職場のあんぜんサイト「特殊健康診断」(厚生労働省)
正職員だけでなく、パートやアルバイトの従業員に対しても、以下に該当する場合は健康診断の実施義務があります。
①1年以上の雇用契約をしている(契約更新により1年以上の雇用が予定されている者を含む)、または、雇用期間を全く定めていない、あるいは既に1年以上引き続いて雇用した実績がある
②1週間あたりの労働時間数が通常の労働者の4分の3以上である
正し、上記の②に当てはまらない場合でも、①に該当し、かつ同種の業務に従事する労働者の1週間の所定労働時間の概ね2分の1以上の労働する従業員には、健康診断を実施することが望ましいとされています。
出典:労働安全衛生法について(厚生労働省)(2024年12月27日利用)
健康診断を受診させない場合、あるいは「受診したくない」と拒否する従業員を放置している場合、どうなるのか。
企業が従業員に対して健康診断を受けさせなかった場合には、労働安全衛生法の違反となり、罰則を受けることになります。
労働安全衛生法第66条1項の定めにより、年に1回の健康診断を実施する義務があります。さらに、健康診断を実施したのち、常時50人以上労働者を使用する事業場では、「定期健康診断結果報告書」を所轄労働基準監督署に提出しなければなりません。
この定期健康診断の実施は事業者の義務(労働安全衛生法第66条1項)であり、実施していない場合、労働基準監督署から指導が入ります。指導を受けてからも健康診断を受けていない場合は、50万円以下の罰金に処せられます(労働安全衛生法第120条)。
出典:労働安全衛生法について(厚生労働省)(2024年12月27日利用)
定期的な健康診断を実施していなかったり、健康診断を受けて精密検査が必要となった旨を従業員に知らせていなかったりした結果として、業務上の理由でのけがや病気が発生した場合、損害賠償を請求されるおそれがあります。
また、健康診断の結果、業務負担の軽減が必要であると知りながら、必要な措置を取らなかった場合にも、損害賠償請求される可能性は否定できません。
従業員に対して健康診断を、受診させるだけでは、安全配慮義務を果たしているとは言えないのです。結果を受け、従業員が健康を損なわずに勤務できる労働環境を整える必要があります。
健康診断を受けさせるのは企業側の義務ですが、従業員にも「健康診断を受ける義務」があります。忙しい、面倒などの理由で従業員が健康診断を拒否した場合、企業側としてどのように対応すべきなのかについて解説します。
企業として健康診断の受診をすすめたにも関わらず従業員が拒否したという場合には、法律上の罰則はありません。
ただし、就業規則に基づいて懲戒処分を与えることは可能です。健康診断は、企業と従業員との双方の義務であることを伝えて受診を促すほか、健康診断が受けられるよう業務の調整をしたり、健診日を複数設けたりなど、企業としての配慮もおこないましょう。
出典:健康診断Q&A(厚生労働省)(2024年12月27日利用)
企業も従業員も、互いに健康面の不安を持たずに業務に取り組めるよう、法律で定められた健康診断を受けるようにしましょう。健康診断を受けることで、生活習慣病の早期発見や悪化予防、そこから関連して生じる脳梗塞・心筋梗塞といった重大な疾患の予防が可能です。
女性の場合、健康診断だけでは見つけにくい特有の健康問題がいくつかあります。
女性特有の健康問題としては、月経関連症状や妊娠・出産、更年期症状のほか、乳がんや子宮がんなども挙げられます。20代から50代・60代まで、働く世代の多くの女性に、何らかの形で関係するものです。そして、こうした健康問題は、一般的な健康診断の結果には反映されないことも多いです。健康診断時に婦人科系の検査の追加も促し、健康問題の早期発見に繋げることが重要です。
これらの女性の健康問題に対しては、フェムテックの活用が期待されます。フェムテックといえば、月経や妊娠・出産に関連した商品やサービスを想像する方が多いかもしれませんが、オンラインで女性の健康管理や医療へのアクセスを支援するサービスも増えてきています。
フェムテックを導入することで、女性が特有の健康課題をうまくコントロールしながら、より快適な社会生活を送れるようになることが期待されます。たとえば、生理周期の管理アプリも、ただ月経周期を予測するだけでなく、自分の月経の症状が医療機関へいくべきレベルなのかどうかに気づくきっかけになるでしょう。また、女性はエストロゲンによって更年期以前までは生活習慣病に罹患しにくいですが、更年期以降は体からのエストロゲンの産生が低下するため、高血圧や脂質異常症などを発症するリスクが次第に高まります。フェムテックに健康診断の結果をリンクさせることで、データの推移から疾患の予測も期待されます。
女性の健康増進は企業側にもメリットがあり、従業員の健康増進によって労働生産性向上が期待され、企業価値の向上も見込めるでしょう。女性従業員の活躍のためにも、フェムテックの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
今回は、健康診断の法的な位置付けや、受けさせない場合のリスクなどについて解説しました。健康診断は、企業にも従業員にも義務となっています。健康を守りながら業務にあたるために、年に1度の健康診断を受けるようにしましょう。
また、女性特有の健康課題の解決のため、フェムテックと健康診断データを連動させることも有用です。女性の活躍を推進するため、フェムテックの活用を検討してみてください。
監修者
大迫 鑑顕
千葉大学大学院医学研究院精神医学 特任助教
Bellvitge University Hospital, Barcelona, Spain
医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医・指導医、日本医師会認定産業医、公認心理師
あすか製薬 フェムナレッジでは、女性従業員の活躍を推進するサービスを導入したい企業の皆さまや今後女性特有の健康課題に関する取り組みを検討されている企業の皆さま向けに動画研修サービスをご提供しております。
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