2025.03.31
福利厚生は、企業が従業員の働きやすさを向上させるために提供する重要な制度です。従来の健康診断や社宅制度などの福利厚生に加え、女性の健康課題を解決するフェムテックを活用した新しい福利厚生が注目されています。
本記事では、福利厚生費の基本的な考え方や限度額の有無、適用条件を詳しく解説します。
福利厚生は、社宅・住宅手当や慶弔見舞金などを、企業が従業員に提供する制度を指します。これらの制度は、従業員のモチベーション向上や定着率の改善につながり、企業にとっても優秀な人材を確保するための重要な制度です。
ここでは、福利厚生費と給与との違いについて説明します。
福利厚生費とは、企業が従業員の健康や生活の質向上を目的として支出する福利厚生にかかる費用のことです。給与とは異なり、従業員が直接受け取る金銭ではなく、健康診断や社宅、社内イベントなど、さまざまな形で制度として実施されます。
福利厚生費と給与は、どちらも従業員のために支払われるものですが、その性質は大きく異なります。給与は従業員に直接支払われる報酬であり、所得税や社会保険料の対象となります。
一方、福利厚生費は、企業が従業員の健康増進や職場環境の向上を目的として導入する制度や取り組みにかかる費用です。税務上の優遇措置が認められており、適切に活用すれば企業にとって節税のメリットがあります。ただし、一定の要件を満たさない場合は給与として扱われ、課税対象となるため注意が必要です。
福利厚生費を適用するには、一定の条件を満たす必要があります。また企業が自由に設定できるものの、税務上のルールも存在するため、適用条件を正しく理解することが大切です。
福利厚生費は、企業が支出する費用として経費計上が可能です。ただし、税務上の要件を満たさない場合は、給与とみなされ課税対象となります。
一般的に、福利厚生費として認められるには、以下の条件を満たす必要があります。
• 全従業員が利用できること(特定の人だけが受け取るものは給与と判断される可能性がある)
• 社会通念上、妥当な範囲であること(過度に高額なものは給与扱いとなる場合がある)
• 現金や商品券などの換金性の高いものでないこと
福利厚生費の中には、上限が定められているものもありますが、ほとんどは上限がありません。しかし、過度な支出は税務上のリスクが生じる可能性があります。
福利厚生費は、大きく法定福利費と法定外福利費に分けられます。法定福利は労働基準法や健康保険法で定められている制度です。一方、法定外福利は企業が独自に導入するもので、内容や範囲は企業ごとにさまざまです。
法定外福利費については、法規上の明確な基準が設けられていない場合もありますが、通勤手当や食事支給、健康診断費用の補助などは、福利厚生費として計上するための限度額や要件が定められていることがあります。
ほとんどの福利厚生費には上限がありませんが、その判断基準の一つとして「社会通念上相当な金額」であることが求められます。「社会通念上相当」とは、一般的な企業が導入・実施している制度の範囲内であることを意味します。
福利厚生費の中には、通勤手当や健康診断費用などの福利厚生費に計上できる具体的な金額が決まっているものがあります。しかし、金額が明確に定まっていないものについては、同規模同業種の企業の金額、世間相場などを参考にする必要があります。
例えば、住宅手当が同業他社の価格の2倍を超えるような場合、過剰と判断される可能性があります。この場合、福利厚生費ではなく、給与として課税対象となる可能性があるため注意が必要です。
福利厚生にはさまざまな種類があり、それぞれの項目で適用条件が異なります。ここでは、代表的な福利厚生費を紹介し、適用条件がある場合は併せて紹介します。
全従業員を対象にした人間ドックの費用は、福利厚生費として認められます。ただし、役員や特定の従業員のみが受ける場合は、給与と判断されることがあります。国税庁によると、一定年齢以上の希望者全員が受診でき、その費用を会社が負担する場合は課税対象にならず、福利厚生費として認められるとされています。
慶弔見舞金は、社員やその家族の慶事や弔事に際し、企業が支給する金銭的な支援制度です。主に結婚祝金、出産祝金、傷病見舞金、災害見舞金、弔慰金などが含まれます。これにより、社員の生活を支え、企業との信頼関係を深めることを目的の一つとして考えられます。
慶弔見舞金も社会通念上相当な範囲であれば、福利厚生費として扱われます。ただし、金額が過大な場合は給与所得と見なされ、課税対象となる場合があり、注意が必要です。
国税庁は、従業員レクリエーション旅行の福利厚生費について、以下のように定めています。
• 旅行の期間が4泊5日以内であること。
• 旅行に参加した人数が全体の人数の50パーセント以上であること。
上記いずれの要件も満たしている旅行であっても、自己の都合で旅行に参加しなかった人に金銭を支給する場合には、参加者と不参加者の全員に、その不参加者に対して支給する金銭の額に相当する額の給与の支給があったものとされます。
次のようなものについては、福利厚生費の対象になる従業員レクリエーション旅行には該当しないため、その旅行に係る費用は給与、交際費などとして適切に処理する必要があります。
• 役員だけで行う旅行
• 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行
• 実質的に私的旅行と認められる旅行
• 金銭との選択が可能な旅行
出典:従業員レクリエーション旅行や研修旅行(国税庁)(2025年2月14日)
企業が契約したスポーツジムなどの利用料補助などは、福利厚生費として認められることが多いです。一方で、従業員がそれぞれ異なるスポーツジムなどに契約し、その費用をあと会社が利用料補助として負担すると、給与扱いになる可能性があるため注意が必要です。
企業が社宅を提供する場合と、賃貸住宅の家賃補助として住宅手当を支給する場合があります。社宅の提供は福利厚生費として認められますが、要件があります。国税庁は「使用人に対して社宅や寮などを貸与する場合には、使用人から1か月当たり一定額の家賃(賃貸料相当額の50パーセント以上)を受け取っていれば給与として課税されない。」と回答をしています。
また、住宅手当は現金支給のため、原則として給与所得とみなされ課税対象となる点に注意が必要です。
従業員のキャリアアップや、組織の生産性向上を目的として、教育や研修を導入する場合があります。教育・研修にかかる費用については、業務に関連する場合は、福利厚生費となる認められるケースが多い一方、業務と無関係な資格取得費用などは、給与と判断される場合があるので注意が必要です。
フェムテックとは、女性の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスのことです。例えば、生理(月経)休暇や、婦人科系の検査費用の補助がこれにあたります。企業が導入すれば、女性従業員の働きやすさが向上し、組織全体の生産性向上にもつながります。
福利厚生は、従業員の働きやすさを支援する重要な制度です。適切に活用すれば、企業の魅力を高めるだけでなく、節税のメリットも享受できます。
また、フェムテックを取り入れることで、女性の社会進出をサポートし、多様な働き方をサポートすることが可能です。
今後の企業経営において、福利厚生の充実は引き続き重要な課題となるでしょう。
監修者
大迫 鑑顕
千葉大学大学院医学研究院精神医学 特任助教
Bellvitge University Hospital, Barcelona, Spain
医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医・指導医、日本医師会認定産業医、公認心理師
あすか製薬 フェムナレッジでは、女性従業員の活躍を推進するサービスを導入したい企業の皆さまや今後女性特有の健康課題に関する取り組みを検討されている企業の皆さま向けに動画研修サービスをご提供しております。
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