2025.06.25
高齢化社会がすすむ日本では、家族の介護をしている現役世代の方が多くなっています。2025年問題により、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となることで、超高齢化社会に突入します。そのため、子が親の介護をしなければならない場面も増えてくるでしょう。
この状況は、企業側からすれば介護離職のリスクが増えることを意味しており、今後対策が必要です。本記事では家族介護についての基礎知識や、介護離職を防ぐための課題、取り組みについて解説します。
「家族介護」とは、介護施設へ入所させず、家族が介護者として自宅で介護することです。ただし、家族だけでの介護は難しい場合もあるため、公的な介護保険サービスを利用する場合も含まれます。
家族介護の主なメリットは、以下のとおりです。
● 介護を受ける本人が住み慣れた自宅で過ごせる安心感がある
● 介護を通じて家族の絆が深まる場合がある
● 施設入所よりも費用負担が少ない
一方で、介護する家族の負担は非常に大きく、企業で働く人にとっては仕事との両立が困難になるケースも少なくありません。そのため、企業側としても、従業員の家族介護に対する理解と支援が求められています。
家族介護は従業員個人だけでなく、企業にも大きな影響を与えます。ここでは、従業員が抱える負担と企業側が受ける影響について詳しく見ていきましょう。
厚生労働省の「家族介護者支援マニュアル」によると、多くの家族介護者がさまざまな負担を感じています。家族介護者が感じる負担について、下表にまとめました。
| 負担の種類 | 負担を感じている人の割合 |
|---|---|
| 精神的負担 | 63.7% |
| 身体的負担 | 48.8% |
| 経済的負担 | 44.5% |
出典:厚生労働省「市町村・地域包括支援センターによる家族介護者支援マニュアル~介護者本人の人生の支援~」
日頃の状態でも「イライラしてしまう」、「睡眠の状態が十分ではない」などの疲労を感じている介護者が4割以上にのぼっており、何らかの負担を抱えている家族介護者が多いことがわかります。これらの負担は、従業員の心身の健康状態に影響するだけでなく、仕事のパフォーマンスにも影響する問題です。
経済産業省によると、日本全体で仕事をしながら家族の介護をしているビジネスケアラーやワーキングケアラー(仕事と介護を両立している人)の数は増加しています。
介護離職者は毎年10万人おり、2030年には家族介護者のうち、4割である約318万人がビジネスケアラーになる見込みです。また、介護発生前後で3割ほどのパフォーマンス低下があるとの結果が出ています。
このような状況を踏まえると、企業にとって従業員の介護問題は人材確保や生産性維持の観点からも重要な経営課題といえるでしょう。
出典:経済産業省「経済産業省における介護分野の取組について」
介護離職が発生する要因を理解することは、効果的な対策をとるうえで大切です。厚生労働省の調査によると、介護離職の理由は多岐にわたります。主な理由は、下表のとおりです。
| 離職理由 | 割合 |
|---|---|
| 勤務先の両立支援制度の問題や介護休業等を取得しづらい雰囲気等があった | 43.4% |
| 介護保険サービスや障害福祉サービス等が利用できなかった、利用方法がわからない等あった | 30.2% |
| 自分の希望 | 22.0% |
| 手助け・介護が必要な家族、その他・親族の希望があった | 20.6% |
出典:「三菱UFJリサーチ&コンサルティング.厚生労働省委託調査.令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握 のための調査研究事業 労働者調査 結果の概要.令和4年3月」
上記の結果から、「勤務先の制度や雰囲気の問題」が最も高い割合を占めていることがわかります。これは企業が直接改善できる部分であり、重点的に取り組むべき課題といえるでしょう。具体的には、制度の周知不足や休みを取りづらい職場の雰囲気などへの対策が必要です。
家族介護にはさまざまな費用負担が発生します。ここでは、具体的な費用の目安と、介護者が抱える経済的な課題について解説します。
生命保険文化センターの調査によると、住宅改造や介護ベッドなどさまざまな費用がかかることがわかっています。介護にかかる主な費用を下表にまとめました。
| 費用項目 | 金額 |
|---|---|
| 住宅改造・介護用ベッドなどの一時費用 | 平均740,000円 |
| 月々の介護費用 | 平均83,000円/月 |
| 在宅介護の月額費用 | 平均48,000円/月 |
| 施設介護の月額費用 | 平均122,000円/月 |
また、介護に必要な主な物品は多岐にわたります。
● 介護ベッド
● ポータブルトイレ
● おむつ、介護用品
● 車椅子
● 介護用食器
● 入浴補助用具 など
これらの費用は家計に大きな負担となるため、企業として支援があると従業員にとって大きな支えになります。
出典:公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がわかる?」
独立行政法人労働政策研究・研修機構によると、現在雇用労働者のなかで「介護が原因で家計が苦しくなる」と「介護休業を取得したら収入が減ると思う」という質問に対して「あてはまる」「ややあてはまる」と回答した割合は全体の69.1%にのぼります。
また、平成30年に厚生労働省が公表した調査結果では、家族介護者のうち経済的負担を感じていると回答した方の割合は、全体の44.5%となっています。
今後、超高齢化社会になっていくなかで、さらに経済的不安を抱える労働者は増えていくでしょう。
このような経済的な課題は、従業員が仕事を続けながら介護をするうえでの大きな障壁となっているため、企業による経済的支援がますます重要になります。
出典:厚生労働省「介護休業制度の利用拡大に向けて」
厚生労働省「市町村・地域包括支援センターによる家族介護者支援マニュアル~介護者本人の人生の支援~」
介護と仕事の両立を支援するために、育児・介護休業法で定められた制度やサービスがあります。ここでは、従業員が利用できる主な支援制度について解説します。
育児・介護休業法により、対象となる従業員に定められている制度は以下のとおりです。
| 制度名 | 内容 | 期間・条件 | 根拠法令 |
|---|---|---|---|
| 時間外労働の制限 | 事業主は1ヶ月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせてはならない | 申出は1回につき1ヶ月以上1年以内の期間で可能(複数回申出可能) | 育介法第18条 |
| 深夜業の制限 | 深夜(午後10時~午前5時)に労働させてはならない | 申出は1回につき1ヶ月以上6ヶ月以内の期間で可能(複数回申出可能) | 育介法第20条 |
| 転勤に対する配慮 | 介護中の従業員への転勤配慮義務 | 育介法第26条 |
また、育児・介護休業法第23条により、短時間勤務制度等の措置に関しては、企業はいずれかの措置を講じなくてはなりません。なお、条件として「対象家族1人につき、介護休業をした日数と合わせて少なくとも93日間利用できるようにする必要がある」と定められています。
| 措置名 | 内容 |
|---|---|
| 短時間勤務 | 1日の所定労働時間を短縮できる |
| フレックスタイム | 出退勤時間を柔軟に設定できる |
| 時差出勤 | 始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ |
| 介護費用助成 | 介護サービス利用時の費用助成その他これに準ずる制度 |
さらに、介護休業給付金の制度により、介護によって働いていない期間も給付金を受け取れます。介護休業給付金は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」で計算され、休業前の月収に応じて月額10万円~20万円程度が支給されるため、収入面でのサポートになるでしょう。
ただし、給付額には上限があり、介護休業期間中に賃金が支払われていると減額される場合があります。正確な金額は、休業開始前6ヶ月間の総支給額に基づいて算出され、ハローワークへの書類提出により確定します。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法(介護関係制度)の概要」
「短時間勤務等の措置について」
厚生労働省「Q&A~介護休業給付~」
育児・介護休業法によって、従業員は介護休業を取得できます。
介護休業制度の概要を下表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 取得可能期間 | 対象家族1人につき、要介護状態ごとに1回、通算93日まで |
| 要介護状態の定義 | 負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の長期にわたり常時介護を必要とする状態 |
| 対象家族の範囲 | ・配偶者 ・父母 ・子 ・配偶者の父母 |
| 非正規雇用者の条件 | ・同一事業主に引き続き雇用された期間が1年以上 ・介護休業開始予定日から93日経過後も6ヶ月以上の継続雇用が見込まれること |
出典:厚生労働省「育児・介護休業法(介護関係制度)の概要」
育児・介護休業法で定められている制度は最低限の保障であり、企業でオリジナルの支援を行うことで、より効果的な介護離職防止ができるでしょう。
介護離職を防ぐために、育児・介護休業法で定められている制度を企業内で整備するだけでなく、企業独自の取り組みも重要です。ここでは、企業が取り組むべき課題について具体的に解説します。
企業においては、従業員が活用できる制度やサービスに関する知識を高める役割が求められます。
具体的には、以下のとおりです。
● 仕事と介護の両立支援を行うための委員会設置・運営
● 社内報による経営陣からの発信
● アンケートによる現状把握や個人面談の実施
● 介護に関する情報提供や研修会の実施
● 介護に関する相談窓口の充実
● 介護に直面している従業員とこれから介護を迎える従業員とのコミュニティ運営 など
上記の事例は、実際に企業で取り入れられている取り組みの一部です。
社内全体でこのような取り組みを行うことで、介護に関する意識や雰囲気が変わり、結果として介護離職の防止に役立ちます。
出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する 全ての企業に知ってもらいたい 介護両立支援のアクション 経営者向けガイドライン」
育児・介護休業法で定められている制度に加え、独自の福利厚生を充実させることで従業員の介護負担を軽減できます。昨今、テレワークといった柔軟な働き方が推進され、企業独自の取り組みも進んでいます。具体的に企業で行われている施策例は以下のとおりです。
| 支援内容 | 具体的な施策例 |
|---|---|
| 情報提供・相談 | ・介護相談窓口の設置 ・介護の専門家による相談会 ・介護経験者によるピアサポートグループ |
| 経済的支援 | 介護用品購入費用補助 |
| 柔軟な働き方 | ・テレワーク制度 ・時差出勤制度 ・フレックスタイム制の導入 ・短時間勤務 |
これらの福利厚生費は非課税となるものが多く、企業にとっても税制面でのメリットのひとつです。
施策は取り入れるだけではなく、効果的に行われているか検証をしなくてはなりません。効果の検証を行うには、介護と仕事の両立に取り組む従業員やそうでない従業、人事担当者などさまざまな対象にアンケートを実施し、フィードバックを得ることが重要です。
施策の利用実態や効果を把握し、自社の支援施策に反映させることで、長期的な改善と対外的な発信に役立てられるでしょう。
出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する 全ての企業に知ってもらいたい 介護両立支援のアクション 経営者向けガイドライン」
本記事では、家族介護の基本的な知識から、従業員が抱える負担や法定の支援制度、企業が取り組むべき課題まで幅広く解説しました。
現在、日本の介護者は女性が多く、介護によりキャリアを諦めてしまう女性は少なくありません。高齢化が進む日本社会において、介護問題は今後ますます多くの従業員に関わる課題となります。企業としては、法定の制度を整備するだけでなく、従業員が安心して介護と仕事を両立できるような独自の支援体制を構築することが大切です。
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