2026.10.27
厚生労働省の令和7年度『能力開発基本調査』では、能力開発や人材育成について『何らかの問題がある』と回答した事業所が80.1%に上っています。実際、社員教育は研修を実施しただけで成果につながるものではなく、その後の実践やフォローアップまで含めて設計することが重要です。
人材育成では、研修内容そのものだけでなく、現場で学びを活用できる環境づくりも重要な要素の一つです。自社の課題に合わせて教育施策を選び、継続的に見直していくことが求められます。
本記事では、社員教育が定着しない主な原因や、人材育成計画の立て方、教育効果を高めるためのフォローアップ施策について解説します。
出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」
厚生労働省の「令和7年度能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成について何らかの問題があると回答した事業所が80.1%に上っています。こうしたことから、社員教育では研修を実施するだけでなく、その後の実践やフォローアップまで含めた育成設計が重要と考えられています。その背景には、研修内容だけではなく、教育設計や職場環境、受講後の運用に関する課題が隠れていることがあります。まずは社員教育が定着しない主な原因を確認し、自社の状況と照らし合わせてみましょう。
社員教育を実施する際は、「なぜ実施するのか」を明確にすることが重要です。
例えば、「毎年実施しているから」「他社でも行っているから」といった理由だけでは、教育の目的が受講者に伝わりにくくなります。結果として、受講者が学習の必要性を理解できず、主体的な参加につながらない可能性があります。
教育施策を検討する際は、
● 解決したい組織課題は何か
● どのようなスキルを習得してほしいのか
● 研修後にどのような行動変容を期待するのか
をあらかじめ整理しておくと、教育内容の選定や効果の振り返りがしやすくなります。
研修で学んだ内容が実務で活用されなければ、教育効果を感じにくくなります。
例えば、実際の業務では使う機会が少ない内容や、現場の課題とかけ離れたテーマを扱うと、受講者は学習内容を自分ごととして捉えにくくなります。
社員教育では、現場で起こり得る課題やケースを取り上げたり、実践を前提とした演習を取り入れたりすることで、学習内容を業務と結び付ける機会を設けることができます。
教育は実施して終わりではありません。
研修直後は理解できたと感じていても、実践の機会がなければ、学んだ内容を業務で活用しにくくなる可能性があります。そのため、研修後のフォローアップを育成プロセスの一部として位置付ける企業もあります。
研修後に振り返りや実践の機会を設けることで、学んだ内容を業務に活かしやすくなります。教育施策を検討する際は、研修後のフォローアップまで含めて設計することが重要です。
出典:厚生労働省 「職場における学び・学び直し促進ガイドライン特設サイト」
社員教育を一過性の取り組みにしないためには、育成計画を体系的に設計することが重要です。研修を実施すること自体が目的になってしまうと、学習内容が現場で活用されず、期待した成果につながりにくくなります。
効果的な人材育成を実現するためには、まず組織の課題を把握し、その課題解決につながる目標を設定したうえで、計画的な育成体系を構築することが大切です。ここでは、人材育成計画を作成する際に押さえておきたい3つのステップを紹介します。
人材育成計画を作成する際は、最初に組織の現状を把握する必要があります。育成施策は組織課題を解決するための手段であるため、課題の特定が不十分なままでは適切な教育施策を選択できません。
例えば、
● 若手社員の早期離職が課題となっている
● 管理職によってマネジメント力に差がある
● 部門間でスキルレベルにばらつきがある
など、企業によって抱える課題は異なります。
また、現場の課題と人事部門が認識している課題にギャップがあるケースも少なくありません。そのため、アンケートや面談、評価結果、人事データなどを活用しながら、多角的な視点で現状を分析することが大切です。
課題が明確になることで、「どの層に対して」「どのような能力開発が必要なのか」が整理され、その後の目標設定や教育施策の選定を進めやすくなります。
課題を把握した後は、人材育成によって実現したい目標を明確にします。
目標設定の際は、
● 誰を対象とするのか
● どのような状態を目指すのか
● いつまでに達成したいのか
を具体化することがポイントです。
例えば、「管理職が定期的に1on1を実施できるようになる」「新入社員が入社後3か月以内に基本業務を自立して遂行できるようになる」といったように、行動レベルまで落とし込むことで、育成の方向性を共有しやすくなります。
目標を具体化することで、育成施策の方向性を明確にし、研修後の効果測定や教育施策の見直しにも活用しやすくなります。
出典:経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」
目標を設定したら、それを実現するための育成体系を整備します。
育成体系とは、職種や役職、キャリアステージごとに必要な知識やスキルを整理し、どのタイミングで何を学ぶかを明確にした仕組みです。個別の研修を単発で実施するのではなく、中長期的な成長を見据えて学習機会を設計することで、より効果的な人材育成を実現しやすくなります。
例えば、
● 新入社員はビジネスマナーや業務基礎
● 中堅社員は課題解決力や後輩育成
● 管理職はマネジメントや評価スキル
といったように、成長段階に応じて必要な教育内容を整理します。
さらに、OJTやOff-JT、eラーニングなど複数の学習方法を組み合わせることで、知識の習得から実践までを一貫して支援できます。育成体系をあらかじめ整備しておくことで、社員自身が将来必要となるスキルを理解しやすくなり、自律的なキャリア形成を支援する環境づくりにも役立ちます。
社員教育にはさまざまな方法がありますが、代表的なものとして「OJT(On the Job Training)」と「Off-JT(Off the Job Training)」があります。どちらも人材育成に欠かせない手法ですが、それぞれ得意とする学習内容や目的が異なります。
効果的な人材育成を実現するためには、どちらか一方を選ぶのではなく、それぞれの特徴を理解したうえで適切に使い分けることが求められます。ここでは、OJTとOff-JTそれぞれに適した教育内容と、活用する際のポイントについて解説します。
OJT(On the Job Training)は、実際の業務を通じて知識やスキルを習得する教育方法です。上司や先輩社員の指導を受けながら実務に取り組むため、学んだ内容をその場で実践できるという特徴があります。
主に、
● 実務スキルの習得
● 業務手順の理解
● 顧客対応や現場ノウハウの共有
などに適しています。
例えば、営業担当者が商談の進め方を学ぶ場合や、製造現場で機械操作を身につける場合など、実際の業務経験が重要となる場面ではOJTが効果を発揮します。業務を行いながら学習を進めるため、知識と実践を結び付けやすく、実務に必要なスキルの習得を支援しやすいという特徴があります。
一方で、指導する上司や先輩社員の経験やスキルによって教育内容に差が生じやすいという課題もあります。そのため、指導内容の標準化や育成担当者への教育にも取り組む必要があります。
Off-JTは、日常業務から離れて実施する研修やセミナー、eラーニングなどの教育手法です。体系的な知識を効率よく学べるため、全社的に共通して身につけてほしい内容の教育に適しています。
例えば、
● リーダーシップ
● マネジメント
● コンプライアンス
● コミュニケーションスキル
といったテーマは、Off-JTとの相性が良いとされています。
また、複数の受講者が同じ内容を学習することで、共通の知識・考え方を学ぶ機会を設けやすい点もメリットです。組織として共通の考え方や価値観を浸透させたい場合にも活用しやすいでしょう。
一方で、研修で知識を習得しただけでは十分な成果につながらない場合があります。学んだ内容を実際の業務で活用する機会がなければ、時間の経過とともに理解が薄れてしまう可能性もあります。そのため、研修後の実践機会や振り返りの場を設けることで、学びを定着させやすくなります。
出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」
実際の人材育成では、OJTとOff-JTを組み合わせて運用することがあります。OJTによる実践的な指導と、Off-JTによる体系的な学習を組み合わせることで、より効果的な育成につながると考えられているためです。
例えば、管理職向け研修でマネジメント理論や1on1の進め方を学んだ後、実際の部下との面談で実践する流れが考えられます。また、新入社員教育では、集合研修で業務知識や会社のルールを学び、その後OJTで実務経験を積む方法がよく用いられています。
Off-JTで知識や考え方を学び、OJTで実践することで、学んだ内容を業務で活用する機会を設けることができます。
出典:厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」
OJTとOff-JTを組み合わせて実施しても、それだけで教育効果が定着するとは限りません。研修や実務を通じて学んだ内容を実際の行動として定着させるためには、継続的なフォローアップが欠かせません。
研修後に振り返りや実践の機会を設けることで、学んだ内容を再確認し、業務で活用する機会をつくることができます。
特に、業務のなかで学んだ内容を活用する機会が少ない場合、知識として理解していても行動変容につながりにくくなります。
また、教育担当部門だけでなく、上司や所属部署が育成に関わることで、学びを現場で活かしやすい環境づくりにつながります。教育を「受講して終わり」にしないためには、実践・振り返り・改善を繰り返す仕組みを整えることが大切です。
研修で学んだ内容を現場で活かすためには、上司による継続的な支援が重要です。なかでも1on1ミーティングは、受講者の学びや実践状況を確認し、必要な支援について話し合う機会として活用できます。
研修後には、「何を学んだのか」「どのように業務へ活かすのか」「実践するうえで困っていることはないか」といった内容を定期的に確認するとよいでしょう。上司が学習内容に関心を持ち、実践状況を把握することで、受講者も学びを継続しやすくなります。
また、研修と業務のつながりを上司が一緒に整理することで、学んだ知識が具体的な行動へ結び付きやすくなります。社員教育の効果を高めるためには、人事部門だけでなく現場の管理職も育成に関与することが大切です。
社員教育では、知識を習得するだけでなく、実際の業務で活用することが求められます。そのため、研修後に実践課題を設定し、学んだ内容を業務の中で試す機会を設けることが、知識と実践を結び付けるうえで重要と考えられています。
例えば、研修で学んだ内容をもとにアクションプランを作成し、一定期間取り組んだ後に結果を振り返る方法があります。管理職研修であれば1on1の実施、新人研修であれば業務改善提案の実践など、研修内容に合わせて具体的な課題を設定することで、研修で学んだ内容と実際の業務を結び付けやすくなります。
実践を通じて成功体験や課題を経験することで、理解を深めるきっかけになります。研修を単発のイベントに終わらせないためにも、実践を前提とした育成設計を意識しましょう。
教育施策を継続的に運用するためには、学習履歴や受講状況を可視化することも重要です。誰がどの研修を受講し、どの程度学習が進んでいるのかを把握できれば、必要なフォローアップを行いやすくなります。
また、受講者自身が学習状況を確認できる環境を整えることで、主体的な学習を促す効果も期待できます。近年はeラーニングやLMS(学習管理システム)を活用し、受講履歴や進捗状況を一元管理する企業も見られます。
学習状況を数値やデータとして把握できるようになると、教育施策の改善点も見つけやすくなります。効果測定のためにも、学習履歴の管理体制を整備することが大切です。
教育効果を高めるためには、研修後の振り返りを継続的に実施することが欠かせません。受講直後は理解していた内容でも、時間の経過とともに忘れてしまうことがあるためです。
例えば、研修から数週間後や数か月後にフォローアップ面談や意見交換会を実施し、実践できたことや課題となったことを共有する機会を設ける方法があります。学びを振り返ることで新たな気付きが得られ、知識の再確認にもつながります。
また、組織としては教育施策の課題や改善点を把握できるため、次回以降の研修内容の見直しにも活用できます。人材育成は一度の研修で完結するものではなく、振り返りと改善を繰り返しながら継続的に取り組むことで、成果につながりやすくなります。
社員教育は、研修を実施すること自体が目的ではありません。重要なのは、社員が学んだ知識やスキルを実際の業務で活用し、組織全体の成果向上につなげることです。
しかし、どれだけ充実した研修を実施しても、目的が曖昧なまま運用されたり、現場での実践機会が不足していたりすると、期待した効果を得ることは難しくなります。社員教育を成功させるためには、研修の実施だけでなく、その後の実践やフォローアップまで含めて設計することが重要です。
例えば、組織課題を踏まえて育成目標を設定し、OJTとOff-JTを組み合わせながら学習機会を提供することで、知識の習得と実践の両立を図ることができます。また、上司との1on1や実践課題、定期的な振り返りなどを通じて学びを継続的に支援することで、教育内容の定着を後押しできます。
さらに、近年は人的資本経営への関心の高まりを背景に、人材育成を経営課題の一つとして捉える企業も見られます。
そのなかで社員教育には、単なるスキル習得だけでなく、従業員の成長意欲を高め、組織の持続的な成長を支える役割も求められています。
教育施策の成果を高めるためには、「研修を実施したか」ではなく、「学びが現場で活用されているか」という視点で継続的に改善を重ねていくことが大切です。社員一人ひとりの成長を支援する仕組みを整えることで、組織全体の生産性向上や、持続的な成長を支える基盤づくりにつながることが期待されます。
社員教育では、研修を実施するだけでなく、その後の学びを継続し、現場で活用できる状態を目指すことが重要です。しかし、受講状況の把握やフォローアップ、学習機会の提供などを継続して行うことに課題を感じている企業も少なくありません。
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