健康診断は、自分の健康状態を確認し、病気の早期発見につなげる大切な機会です。しかし、忙しさやうっかり忘れてしまうことなど、さまざまな理由で受診しないまま過ごしてしまう方もいるかもしれません。
「今年は受けなくても、また来年受ければいい」と考えることもあるかもしれませんが、健康診断を受けないことで思わぬリスクが生じる可能性があります。
本記事では、健康診断を受けなかった場合のリスクや費用について解説します。
健康診断は、生活習慣病をはじめとするさまざまな病気の早期発見・早期治療に加え、病気を予防する目的で実施されます。
企業に所属していない方や自治体の健康診断を受ける方など、広く一般に提供される健康診断もあります。一方で、正社員など常時雇用関係にある労働者については、労働安全衛生法に基づく定期健康診断(一般健康診断)が義務付けられています。
労働安全衛生法に基づく定期健康診断の主な目的は、以下の通りです。
労働安全衛生法に基づく定期健康診断は、労働環境の変化に応じて適宜見直しが求められます。そのため、最新の科学的知見や制度改正に基づき、検査内容が変更されることもあります。
また、健康診断には次の2つの種類があります。
健康診断には労働安全衛生法などの法律によって実施が義務付けられた法定健康診断と、個人が任意判断で受ける任意健康診断の2種類があります。法定健康診断とは、冒頭でも紹介した通り、労働安全衛生法で義務付けられた定期健康診断(一般健康診断)のことで、事業者には以下の2回のタイミングで定期健康診断を実施することが義務づけられています。
これらにくわえて、厚生労働省が定めた特定の業務に従事する方は、労働安全衛生規則第45条に基づき、当該業務への配置換えのときと、6ヶ月以内ごとに1回定期健康診断を受けなければなりません。
一方、任意健康診断とは自分の判断で受ける健康診断のことです。法定健診よりも検査項目が多く、より精密な検査を受けることが可能で、その代表例が人間ドックです。法的な義務はなく、希望する検査を自由に選べますが、費用は全額自己負担となるため、高額になることもあります。
定期健康診断は労働安全衛生法に基づき、労働者全員が受ける義務があります。労働安全衛生法では「常時使用する労働者に対して」とあるため、正社員だけでなく、日雇労働者やパートタイマーなどの臨時的労働者も含め、常態として使用されている労働者が対象となります。
一方で、短時間労働者については、常時使用する労働者に該当しない場合、法律上の義務はありませんが、事業者が自主的に健康診断を実施することが望ましいとされています。
定期健康診断を忘れてしまうと、事業所側にはさまざまなリスクを被ります。このリスクをしっかりと念頭において定期健康診断を忘れずに計画的に進めることが必要です。定期健康診断を忘れた場合のリスクについておさえておきましょう。
定期健康診断は労働安全衛生法に基づく義務です。もしも、従業員に定期健康診断を受けさせなかった場合には、労働安全衛生法第120条により企業側に50万円以下の罰金が科されます。
労働者も労働安全衛生法第66条5項により、定期健康診断を受ける義務がありますが、労働者側が受診しなくても罰則はありません。事業者は受診命令に従わない労働者に懲戒処分を行えますが、可能な限り督促や説明を尽くすことが望ましいです。
また、労働者の医師選択の自由も認められており、別の医師の診断結果を提出すれば問題ありません。定期健康診断の重要性を周知し、受診しやすい環境を整えることで、労働者が積極的に受診できるよう配慮することが大切です。
定期健康診断を受けないと、身体の異常を早期に発見できず、健康を損なうリスクが高まります。がんや心疾患などの重大な疾患も、定期的な検査によって早期に発見できる場合があります。定期健康診断を怠ることで、治療開始が遅れ、結果的に健康を大きく損なうリスクが高まってしまうでしょう。
さらに、未発見の疾患が進行すると、日常生活や仕事に支障をきたし、生活の質が低下する恐れもあります。したがって、健康維持のために定期的な健康診断を受けることが重要です。
定期健康診断を受けさせずに従業員が健康状態の悪化したまま業務を続けることは、経済的なリスクを伴います。健康状態の悪化により生産性が低下すれば、事業所の利益に直接影響を及ぼします。
さらに、健康状態が悪化して就労が困難になれば、長期休職や離職が増加する可能性があります。休職者や離職者が増えれば、その分の人員を補充する必要があり、採用費用や研修費用などの追加コストが発生し、経済的な負担が増大するでしょう。
また、健康管理が不十分な状態で業務を続けた結果、労働災害が発生した場合、企業には補償金の負担が生じるだけでなく、裁判による賠償金の支払いが発生する可能性もあります。
さらに、労働災害がメディアで報道されることで、企業の信頼が損なわれ、ブランドイメージの低下や売上の減少につながる恐れもあります。その結果、企業の経済的なリスクは一層深刻なものとなってしまうでしょう。
大前提として労働安全衛生法に基づく定期健康診断の費用は全て企業側の負担となるため、労働者側の負担はありません。従業員側が定期健康診断を受け忘れてしまった場合の費用負担を解説します。
もしも、従業員が定期健康診断を受け忘れてしまった場合、再度日程を調整して受診しなければなりません。この場合、通常は企業負担のまま受診できます。
定期健康診断の費用は、一般的に一人あたり5,000円から15,000円程度に設定されている医療機関や健診機関が多いようです。
定期健康診断の指定日を繰り返し忘れたことによって、会社が再手配せず「自分で健康診断を受けて提出してください」と指示することもあります。この場合は自己負担となる可能性が高いです。
自費で健康診断を受ける場合、一般的な健康診断の費用は、約10,000円程度です。検査項目を追加するごとに別途費用が発生します。また、医療機関によって検査項目ごとの費用には差があります。
定期健康診断を受け忘れないために、さまざまな対策が必要です。ここでは、企業側ができる取り組みと個人でできる対策について解説します。
昨今、健康法人優良認定制度が導入されたことにより、認定を取得するために健康支援に関する取り組みを重視する企業が増えてきています。その結果、従業員が定期健康診断を受けることを忘れないよう、対策を講じる企業も年々増加しています。
例えば、他社と合同で定期健康診断を実施し、受診率がアップするよう工夫する企業もあります。また、再検査が必要となった従業員に対して特別休暇を付与し、有給扱いで検査を受けられるようにするなど、定期健康診断を受けやすい環境を整える企業も増えてきました。
さらに、通常は自己負担となるがん検診の費用を補助したり、任意の健康診断である人間ドックの自己負担額を軽減するために、会社が補助金を増額するなどの対応を行う企業も増えています。
個人でも定期健康診断を忘れないよう、手帳やスマートフォンのカレンダーに記録するなどの工夫が必要です。
また、近年ではフェムテックサービスを活用することで、健康管理の効率化が可能になっています。
例えば、生理周期やホルモンバランスを管理できるアプリを活用すれば、体調の変化を予測しやすくなり、健康診断のタイミングも計画しやすくなります。さらに、婦人科系疾患のリスクをチェックできるデバイスや、更年期症状をサポートするウェアラブル端末も登場しており、日々の健康維持に役立ちます。
健康診断の受診は労働安全衛生法で定められており、事業者にとって重要な取り組みの一つです。健康診断を適切に実施しないと、経済的なリスクを伴う可能性があり、最終的には会社の経営にも影響を及ぼすことが考えられます。そのため、健康診断を確実に実施することが望まれます。
すべての従業員が安心して健康診断を受けられるよう、企業側の適切な対応が求められます。近年では、フェムテックを活用した健康診断の管理を導入する企業も増えてきました。
フェムテックをうまく活用し、従業員が健康診断を忘れずに受診できる環境を整えていきましょう。
監修者
大迫 鑑顕
千葉大学大学院医学研究院精神医学 特任助教
Bellvitge University Hospital, Barcelona, Spain
医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医・指導医、日本医師会認定産業医、公認心理師
あすか製薬 フェムナレッジでは、女性従業員の活躍を推進するサービスを導入したい企業の皆さまや今後女性特有の健康課題に関する取り組みを検討されている企業の皆さま向けに動画研修サービスをご提供しております。
Mint+ フェムナレッジについての
お問い合わせはこちらから