血清遊離脂肪酸を用いた
卵巣がんの早期診断マーカーの開発
研究内容について
Q1.「血清遊離脂肪酸を用いた卵巣がんの早期診断マーカーの開発」についての研究内容とその研究成果について教えてください。
卵巣がんは、腹腔内に発生する腫瘍であるため症状を呈しにくく、また、生検による病理学的診断がつけられないため、早期発見が極めて困難です。加えて、早期診断に有効な血清腫瘍マーカーや卵巣がん検診を可能にするスクリーニング方法も存在しません。
このような特性から、卵巣がんの半数以上はⅢ/Ⅳ期で発見されます。進行がんの場合、手術摘出および化学療法による集学的治療が施されますが、約80%は再発する予後不良な難治性がんです。
反対に、卵巣に限局するステージⅠで発見・治療が施されれば5年生存率約90%となり完治も期待できます。従って、卵巣がんの新たな早期診断マーカーは、世界中でアンメットメディカルニーズになっています。
我々の研究グループは、まず、正常卵巣組織と卵巣がん組織における脂肪酸代謝関連酵素の発現を網羅的に解析しました。その結果、卵巣がん組織中では、ステージⅠの早期から複数の脂肪酸代謝酵素の発現が著明に変化していることを明らかとしました。
我々は以前に、大腸がん・肺がん患者において、がん組織中の脂肪酸代謝酵素の発現変化に起因して、血清中の遊離脂肪酸構成が変化することを報告しています(Katoh et al. 2022 J ImmunotherCancer)。
そこで次に、健常ボランティアおよび早期卵巣がん患者から微量血清を採取し、血清中に含まれる遊離脂肪酸を、ガスクロマトグラフィー質量分析器(GC-MS)で網羅的に測定しました。その結果、早期卵巣がん患者の血清においては、8種の遊離脂肪酸が高頻度で高値 (あるいは低値) であり、健常者とは明確に区別できることを発見しました。
続いて、統計学的解析により、8種のうち、オレイン酸 (FA18:1)とアラキジン酸 (FA20:0)を組み合わせた、最適な診断モデル(Diagnostic Index (FA18:1, FA20:0): DI(FA18:1, FA20:0))を構築しました。
更に、我々が開発した、DI(FA18:1, FA20:0)は、現在実臨床においてゴールドスタンダードで使用されているCA125より、高精度、且つ、組織型非依存的に、早期卵巣がん患者を検出できることが明らかになりました(Katoh et al. 2023 Can Res Commun, 国際特許出願: PCT/JP2023/028921)。
Q2.その研究を行った経緯を教えてください。
我々の研究グループは、これまで、抗PD-1抗体療法などのがん免疫療法におけるバイオマーカーの同定を目的として、がん微小環境における各種代謝状態 (エネルギー・アミノ酸・脂質・核酸)に焦点をあてて、研究を進めてきました。
この研究の中で、がん組織中において、脂肪酸代謝酵素(特に、脂肪酸不飽和化酵素;SCD1)の発現が変化すると、それに連動して、血清中の脂肪酸の構成バランスが変化することを発見しました (国際特許出願:WO2020/246336)。
また、SCD1に関連する他の報告では、SCD1は腎がんや肺がんなど、複数のがん種で早期(ステージⅠ)の段階から高発現し、がん形成や浸潤・転移に関与する分子であることが報告されていました (von Roemeling CA et al. 2013 Clin Can Res)。
これらのことより、もしも、早期診断が困難な卵巣がんにおいても、早期からSCD1が高発現していたら、「SCD1の高発現に起因する血清中遊離脂肪酸の変動を検出することで、がんの早期診断が可能ではないか?」と着想するに至りました。
Q3.加藤様が考える本研究の意義を教えてください。
現行の卵巣がんの腫瘍マーカーはCA125ですが、早期診断マーカーとしては不十分であることが明らかとなっています。
その理由として、疾患頻度の高い組織型である漿液性がんの病態を示し9割以上で陽性となるものの、早期より陽性になるとは限らず、また、粘液性がんや日本人に多い組織型である明細胞がんでは陽性率が低いことが挙げられます。
加えて、良性卵巣嚢腫や子宮内膜症などの良性疾患や炎症性疾患、さらには、妊娠や月経でも上昇するため偽陽性率が高いことも課題となっています。そのため、前述したように、非侵襲的な卵巣がんの新たな早期診断マーカーは、世界中で、アンメットメディカルニーズになっています。
我々の開発した、「血清遊離脂肪酸を用いた卵巣がんの早期診断マーカー」が臨床応用されると、人間ドックや検診センターで使用可能な、低侵襲で簡便、且つ、高精度な、新たながん早期診断法が実現します。これにより、世界的にも社会的ニーズが高い、難治性の卵巣がんの早期発見が可能となり、患者の生存率が大幅に改善されることが期待されると考えています。
今後の目標について
Q1.加藤様の研究における最終的な目標を教えてください。
先述した通り、最終的な目標は、我々の技術を人間ドックや検診センターで使用可能なものにしていくことです。
そして、我々の技術が、1人でも多くの患者さんの幸せに寄与できれば、研究者冥利に尽きると思っています。
そのためには、症例数の増加や他のがん種との比較による「診断マーカーの精度・確度・特異性の検証」および、多数症例の測定に耐えうる「簡便で安価な測定キットの開発」が必要不可欠であり、現在も研究を継続しています。
Q2.今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?
まずは、卵巣がん以外のがん種への展開を考えています。SCD1の高発現が報告されているがん種は他にもあるため、それらがん種を対象に検証を進めたいです。そのために、現在進行形で、協力してくれる研究組織を増やしています。
次に、早期診断以外のバイオマーカーへの展開も考えています。がん微小環境中の代謝状態は化学療法や免疫療法(免疫チェックポイント阻害療法等)の奏効にも関連することから、早期診断のみならず、各種治療のコンパニオン診断薬への応用、再発リスクを予測するバイオマーカーへの応用も可能ではないかと思っています。
このように、将来的には多方面への展開を計画しています。
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