Mint+のお役立ちコラム Vol.5
< 産婦人科医 吉村先生から学ぶ
~パートナーと知りたい「不妊」の基礎知識~ >

このコラムでは、2021年3月17日に開催した、
女性のための健康ラボMint+主催
「不妊かな?とおもったら聞いてみよう!
~森三中 大島美幸さんと産婦人科医 吉村𣳾典先生が
語るオンラインセミナー~」での、
参加者の皆さまから寄せられた
「不妊」に関する質問について、
吉村先生の解説をご紹介します。

監修:慶應義塾大学名誉教授 吉村𣳾典先生

みんなで考えよう!

※本コラムに掲載した検査や治療に関する情報は、各医療機関によって異なる場合があります。

不妊の定義とは?

Q「不妊・不妊症」とはどういう状態?
A健康なカップルが定期的に性生活を送っても
1年以上妊娠しない状態のことを言います。

生殖可能な年齢にある健康な男女のカップルが、避妊せず定期的に性生活を送っているにもかかわらず、1年以上妊娠しない状態が続いたときを、一般的に「不妊」と考えます。また、1年という期間を満たしていなくても妊娠できない原因があり、それに対する治療が必要な場合は「不妊症」と診断されます。
従来、日本では2年間妊娠しないことを不妊とよんでいましたが、WHOが掲げる「1年間、性生活をもっても妊娠しない場合」という定義と合わせることになりました。これは、性生活を行っているカップルの約90%が1年で妊娠するという報告が元になっています。

また、妊娠してもすぐ流産してしまう状態は、妊娠そのものはできているため、「不妊・不妊症」ではなく「不育・不育症」とよびます。

Q不妊治療を始めるタイミングは?
A一般的な目安として、性生活を1年間続けても妊娠しない場合、
不妊治療を始めることをおすすめします。

実は、日本人は世界の中で最も性生活が少ない、という報告がいくつもあります。ある調査では、欧米の多くの国で年間100回以上の性交渉があるのに対し、日本では45回との結果が示されました(2005年、Durex社による調査)。若いカップルでも、ひと月の性交渉は平均3回程度といわれており、日本人は性交渉の頻度が少ない国民性であるといえるでしょう。

一般的な目安として、ひと月に3~4回の性交渉をもつと約半年で妊娠できるといわれています。もし1年間、性生活を続けても妊娠しないカップルは、不妊治療のために産婦人科を受診されることをおすすめします。また、最近では女性が35歳以上で初産または40歳以上で出産する「高齢出産」の件数が増えています。女性の年齢が上がるにつれ、妊娠や出産に伴うリスクも増えてしまいますので、高齢出産に該当する方では約半年間、性生活を続けても妊娠できなければ不妊治療を開始した方がよいでしょう。

不妊の原因

Q不妊の原因は女性だけに問題があるのでしょうか?
A不妊の原因は男女双方にあります。

不妊は女性側に原因があると思われがちですが、実は男性側に原因があることも少なくありません。WHOの調査によると、不妊原因のうち、約4割が女性だけに原因がある一方で、男性だけに原因があるまたは男女双方に原因がある割合がそれぞれ全体の1/4を占めています。つまり、不妊に悩むカップルの半数は、男性側にも不妊原因があるということになります。そのため、不妊治療を受ける際にはパートナーと話し合い、一緒に受けることが理想的です。

不妊原因の男女別内訳(WHO)

不妊原因の男女別内訳(WHO)不妊原因の男女別内訳(WHO)

WHOによる不妊症原因調査(1996年)
http://hdl.handle.net/1854/LU-261528

一般的な不妊の原因は?

一般的な不妊の原因は?一般的な不妊の原因は?
Q卵子の数は変化するのですか?
A卵子は生まれた時から女性のカラダの中にあり、
年齢と共に減り続けます。

実は、卵子は排卵のたびに卵巣でつくられるのではなく、女性が生まれてくるときに、卵子の元となる「原始卵胞」が既に卵巣の中にあるということをご存知でしょうか。卵子の数は、胎児としてまだお母さんの胎内にいる妊娠5~6ヵ月頃に約700万個にもなり、生まれてくる時には約200万個、思春期には20~30万個に減っていきます。そして閉経の頃には1000個以下になり、次第にゼロに近づいていきます。
一方、男性は50~60歳代になっても精巣で精子をつくることができます。 このような男女差を理解することも、不妊治療にのぞむ際には大切です。

卵子の数の変化

卵子の数の変化卵子の数の変化
加齢による影響加齢による影響

女性1,000人あたりの出生数を20~24歳を100%として計算した。
HENRY L. Some data on natural fertility. Eugen Q. 1961;8:81-91. を元に作図

Q「二人目不妊」になるのはなぜ?
A男女双方の加齢や、女性のカラダの変化などが原因とされています。

一人目を出産したあと、二人目をなかなか授かれないことを「二人目不妊」とよびます。この原因として最も多いのは、カップルの双方が年齢を重ねることによる妊孕力の低下です。
また、女性は30代後半になると、子宮筋腫や子宮内膜症などといった婦人科疾患のリスクが増えることもあり、一人目の妊娠のときよりも妊娠しづらいカラダになっている可能性があります。さらに、一人目を出産したあとの体型の変化(肥満や痩せすぎなど)も不妊の原因となることがあります。

二人目の妊娠を目指して1年程度の性生活をもっても妊娠できない場合は、早めに産婦人科を受診することをおすすめします。特に、一人目が自然妊娠だった方は、二人目不妊に気づくのが遅くなる傾向があります。一人目の妊娠・出産時からカラダの状況が変わっていないか、不妊の原因を医師と相談し、治療を始めましょう。

不妊の検査

Q不妊治療の検査には、どんな種類がある?
A不妊治療を始める前に、男女ともに一般的な検査を行い、
問題が発見されたら詳細な検査を行います。

不妊治療を始めるにあたり、以下のような一般的な検査を行います。一般的な検査で大まかな原因を探り、問題が発見されたら、さらに詳細な検査で詳しい原因や重症度などを調べます。

女性 内診・経膣超音波検査、子宮卵管造影検査、血液検査、性交後試験 など
男性 精液検査、泌尿器科的検査 など
<女性の検査>

内診や経腟超音波検査では、子宮や卵巣に異常がないかどうか確認し、血液検査では、ホルモンや血糖値、全身の健康状態について確認します。子宮卵管造影検査とは、子宮と卵巣をつなぐ「卵管」がつまっていないか、排卵がきちんとできているか、X線を用いて確認する検査です。やや痛みが伴いますが、この検査により卵管のつまりが解消され自然妊娠することもあるため、重要な検査です。
一般的な検査から何らかの疾患が疑われるときは、腹腔鏡検査・子宮鏡検査やMRI検査を行うこともあります。

<男性の検査>

精液検査では、精液の量、濃度、運動の状態、形、感染の有無などを確認します。泌尿器科的検査では、超音波検査や血液検査などにより、不妊原因となる疾患の有無や性生活の状況などを確認します。いずれも簡単に実施できます。精液検査は産婦人科や泌尿器科、泌尿器科的検査は泌尿器科で受けられますが、一部実施していない医療機関もありますので、事前に調べてから受診するとよいでしょう。

検査を受けるときのポイント

最初の検査は、カップルで受けることをおすすめします。
女性の検査の中には、痛みを伴うものもありますが、検査方法の改良により痛みが軽減されてきています。一方、男性の検査は比較的簡単に実施できます。一緒に検査を受けることで、男性が女性の検査のつらさを知る機会になりますし、簡単に行える男性の検査から済ませるという工夫もできます。
また、最近は性交渉ができないというカップルも増えています。検査の際にお話しいただくことで、その後の治療がスムーズに進みます。

基礎体温を記録している方は、最初の検査時に持参するとよいでしょう。

Q不妊の検査はどこで受けられるの?
A不妊治療を実施している産婦人科などの医療機関で受けることができます。

残念ながら、すべての産婦人科で不妊の検査を受けられるわけではありません。ひとえに産婦人科といっても、出産、更年期、婦人科癌など、それぞれに専門分野があるためです。不妊治療を行っている医療機関は全国に約600施設ありますので、お近くの専門医療機関をインターネットなどで調べたうえで直接お問い合わせされることをおすすめします。

不妊の治療

Q不妊治療はどうやって進めるの?
Aまず一般不妊治療から開始し、妊娠できない場合は
生殖補助医療に移行します。

不妊治療は、一般不妊治療と生殖補助医療に大きく分けることができます。
一般不妊治療から開始し、妊娠できない場合は生殖補助医療に移行します。

一般不妊治療

タイミング法 基礎体温や超音波検査から排卵日を予測して、性交のタイミングを合わせる方法です。
基礎体温や、超音波検査による卵胞の状態確認から、排卵の時期を推定し、性交渉を行います。多くのカップルがこの方法から治療を始めます。
薬物治療 排卵が起こらない女性に対し、お薬を使って卵胞の発育、排卵を促す方法です。
人工授精 精子を人工的に子宮内に注入し、精子が卵子と出会う確率を高める方法です。
男性の精子が少ない場合や運動性が悪い時に行います。「人工」とありますが、自然妊娠と同じく体内で受精が起こります。
手術 子宮周囲の癒着や子宮内膜症、子宮筋腫や卵管閉塞といった不妊の原因を取り除くために手術を行うこともあります。
タイミング法
基礎体温や超音波検査から排卵日を予測して、性交のタイミングを合わせる方法です。
基礎体温や、超音波検査による卵胞の状態確認から、排卵の時期を推定し、性交渉を行います。多くのカップルがこの方法から治療を始めます。
薬物治療
排卵が起こらない女性に対し、お薬を使って卵胞の発育、排卵を促す方法です。
人工授精
精子を人工的に子宮内に注入し、精子が卵子と出会う確率を高める方法です。
男性の精子が少ない場合や運動性が悪い時に行います。「人工」とありますが、自然妊娠と同じく体内で受精が起こります。
手術
子宮周囲の癒着や子宮内膜症、子宮筋腫や卵管閉塞といった不妊の原因を取り除くために手術を行うこともあります。

生殖補助医療

取り出した卵子と精子を体外で受精させ、後日子宮内に受精卵を戻す方法です。
他の治療法によって妊娠が得られない難治性の不妊症が対象となります。

取り出した卵子と精子を体外で受精させ、後日子宮内に受精卵を戻す方法です。
他の治療法によって妊娠が得られない難治性の不妊症が対象となります。

体外受精 卵巣から卵子を取り出し、精子を入れたシャーレの中で受精させ、子宮に戻す方法です。
ある程度の精子がある方が対象となります。
顕微授精 精子を1匹取り出し、卵子に直接注入する方法です。
精子の数が非常に少ない方が対象となります。
体外受精
卵巣から卵子を取り出し、精子を入れたシャーレの中で受精させ、子宮に戻す方法です。
ある程度の精子がある方が対象となります。
顕微授精
精子を1匹取り出し、卵子に直接注入する方法です。
精子の数が非常に少ない方が対象となります。
Q男性の不妊治療はどんな方法があるの?
A不妊の原因に合わせ、お薬による治療や、
場合によっては手術を行うこともあります。

男性の不妊に対しては、原因ごとに以下のような治療を行います。

精子の数が少ない
運動性が悪い
ビタミン剤・漢方薬といったお薬を用いた治療や、
精巣の周りの血行を改善する手術を行います。
精子の通り道(精管)に
トラブルがある
精管がふさがっているときは、精路再建術という手術を行います。
性交渉ができない お薬を用いるなどして治療します。
精子の数が少ない・運動性が悪い
ビタミン剤・漢方薬といったお薬を用いた治療や、精巣の周りの血行を改善する手術を行います。
精子の通り道(精管)にトラブルがある
精管がふさがっているときは、精路再建術という手術を行います。
性交渉ができない
お薬を用いるなどして治療します。

これらの治療には時間がかかるため、早く妊娠するために生殖補助医療(体外受精・顕微授精)を受ける方のほうが多くいらっしゃるようです。
顕微授精では、精液中に精子がない方でも、精巣内の精子を取り出して受精させることができます。元々、生殖補助医療は女性の卵管がつまってしまっているときに用いられた治療法ですが、最近は男性に不妊原因がある場合でも広く用いられるようになっています。

体外受精について

不妊治療における体外受精の件数は年々増加し、現在では全国で年間約50万回近い体外受精が行われているとの報告があります。
しかし、体外受精をすると必ず妊娠・出産できるわけではありません。
女性の年齢が35歳以上になると、体外受精での妊娠率が低下する傾向があります。
体外受精により無事に妊娠・出産できる割合は、40歳で10%、45歳では1%程度といわれています。
一方で、流産率は年齢とともに上昇し、
たとえば40歳の女性では3人に1人は流産するという報告もあります。

Q人工授精から体外受精に切替えるタイミングは?
A若いカップルでは6ヵ月~1年程度、女性が高齢出産に
該当するときは2~3回の人工授精で妊娠できなければ、
体外受精に切替えることが一般的です。

人工授精を行ったカップルが体外受精に切替えるタイミングは、女性の年齢で判断するのがよいでしょう。
若いカップルであれば、6ヵ月~1年程度、人工授精を試みても妊娠できなければ、体外受精に移行することが多いようです。女性が高齢出産に該当する年齢である場合は、2~3回の人工授精で妊娠できなければ、体外受精に切替えた方がよいと考えられます。ただし、これらはあくまでも目安ですので、主治医やパートナーと相談し、お二人に合う方法を選ぶことが大切です。

Q不妊治療(妊活)をやめるタイミングは?
A不妊治療を受ける期間や、やめるタイミングについては、
お二人でよく話し合って決めることが大切です。

妊娠を目指して不妊治療を続けていたカップルが、不妊治療をやめることを考えるのは大変難しく、勇気が必要なことかもしれません。しかし、これまで述べたように、男女ともに年齢を重ねるごとに妊娠しにくくなっていきます。不妊治療を始める前や治療中に、「どのくらいの期間、不妊治療を続けるか」「何回くらい体外受精を行うか」「いつ頃になったら不妊治療をやめるか」といったことを、お二人でよく話し合うことが大切です。また、お二人だけで抱え込んでつらい気持ちになってしまう場合は、主治医や不妊カウンセラー、周囲の信頼できる方に相談するなど、第三者のサポートを受けることも考えましょう。

吉村先生からのメッセージ

不妊治療の進歩によって、これまで多くの不妊に悩むカップルが子どもを授かることができるようになりました。
一方で、生殖年齢には適齢期があるというのも事実です。不妊治療を続けてもなかなか妊娠できず、子どもを授かれないカップルもおられます。不妊治療を受けて、いつやめるか、ということについて、お二人で主体的に選択・決断する際に、産婦人科医が支えになれたらと考えています。 子どもを望むカップルが心健やかに妊娠・出産を迎え、子育てができるような社会のの実現に向けて、皆さんと共に頑張っていきたいと思っています。

監修医のご紹介

吉村 𣳾典先生吉村 𣳾典先生

吉村 𣳾典先生

Profile

よしむら・やすのり/慶應義塾大学名誉教授 福島県立医科大学副学長
あすか製薬株式会社社外取締役

1975年 慶應義塾大学医学部卒業。米国留学等を経て95年より同大学医学部産婦人科教授、現在は同大学名誉教授。日本産科婦人科学会理事長等、数々の学会理事長を歴任。2012年に女性と子どもの未来を考える一般社団法人「吉村やすのり 生命(いのち)の環境研究所」を設立。第2次~第4次安倍内閣で内閣官房参与として少子化対策・子育て支援を担当。これまで3千人以上の不妊症、5千人以上の分娩など数多くの患者の治療を担当。福島県立大野病院問題の解決、HPVワクチンの公的助成や特定不妊治療費助成制度の確立、周産期医療従事者の待遇改善、出産育児一時金や妊婦健診の公的助成の増額など、わが国の周産期医療の危機を救い、女性の健康力増進に貢献。『生殖医療の未来学―生まれてくる子どものために―』など、生殖医学に関する著書多数。

よしむら・やすのり/慶應義塾大学名誉教授 福島県立医科大学副学長
あすか製薬株式会社社外取締役
1975年 慶應義塾大学医学部卒業。米国留学等を経て95年より同大学医学部産婦人科教授、現在は同大学名誉教授。日本産科婦人科学会理事長等、数々の学会理事長を歴任。2012年に女性と子どもの未来を考える一般社団法人「吉村やすのり 生命(いのち)の環境研究所」を設立。第2次~第4次安倍内閣で内閣官房参与として少子化対策・子育て支援を担当。これまで3千人以上の不妊症、5千人以上の分娩など数多くの患者の治療を担当。福島県立大野病院問題の解決、HPVワクチンの公的助成や特定不妊治療費助成制度の確立、周産期医療従事者の待遇改善、出産育児一時金や妊婦健診の公的助成の増額など、わが国の周産期医療の危機を救い、女性の健康力増進に貢献。『生殖医療の未来学―生まれてくる子どものために―』など、生殖医学に関する著書多数。

不妊の原因や治療法はさまざま。
二人が納得して受けられる
治療について、
しっかり話し合ってみよう

ちゃんと話し合おうちゃんと話し合おう
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