いつか子どもが欲しい方に…
知っておきたい
「不妊」のはなし

晩婚化が進む日本では、
男女ともに子どもを望む年齢が
高くなっていることなどから
「不妊」の悩みを持つ方が増えています。
そもそも「不妊」とは?
どうやって治療するの?
気をつけておきたいことは?など
気になるポイントをご紹介します。

「不妊」について、正しく知ろう

「不妊」って、どんな状態をいうの?

⽣殖年齢の男⼥が、避妊せず定期的に性生活を送っているにもかかわらず、1年以上妊娠しない状態が続いたときを、一般的に「不妊」と考えます。また、1年という期間を満たしていなくても妊娠できない原因があり、それに対する治療が必要な場合は「不妊症」と診断されます。

不妊にはさまざまな原因がありますが、加齢もそのひとつです。男女とも、加齢によって妊娠する力/妊娠させる力(妊孕力にんようりょく)が低下することがわかっています。

近年では晩婚化が進み、男女ともに子どもを望む年齢が高くなっていることもあり、不妊で悩むカップルが増えています。「不妊を心配したことがある、または現在心配している夫婦」の割合は約35%、そして5.5組に1組のカップルが不妊の検査や治療を受けていると報告されています
実は、不妊はとても身近なことなのです。「いつか子どもが欲しい」と考えている方は、不妊と不妊治療について知っておくことはとても大切です。

※ 出典:「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(国立社会保障・人口問題研究所)
(https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/doukou15_gaiyo.asp)

女性の年齢による妊孕力にんようりょくの変化

※ 妊娠することができる能力のこと

女性1,000人あたりの出生数を20~24歳を100%として計算した。
HENRY L. Some data on natural fertility. Eugen Q. 1961;8:81-91. を元に作図

平均初婚年齢と出生時の母親の年齢

出典:内閣府ホームページ(https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/
whitepaper/measures/
w-2022/r04webhonpen/html/b1_s1-1-3.html)を加工して作成
元データ:厚生労働省「人口動態統計」

不妊の原因は、女性にも男性にも

不妊は、原因が男女どちらにあるかによって「男性不妊」と「女性不妊」に分けられます。
なかには、検査をおこなっても原因がはっきりわからない「原因不明不妊」であるケースもあります。

不妊は女性側に原因があると思われがちですが、実は男性側に原因があることも多く、また、男女両方に原因がある場合も考えられますので、病院での診察はパートナーと話し合い、一緒に受けることが理想的です。

不妊原因の男女別内訳(WHO)

WHOによる不妊症原因調査(1996年)
http://hdl.handle.net/1854/LU-261528

一般的な不妊の原因は?

不妊の主な原因

受精に関するトラブル 卵管がふさがっている 排卵に関するトラブル 着床に関するトラブル 精子の輸送に関するトラブル 精子が卵管まで進みづらい環境 精子の状態に関するトラブル 精子の通り道に関するトラブル 性交渉ができない 受精に関するトラブル 卵管がふさがっている 排卵に関するトラブル 着床に関するトラブル 精子の輸送に関するトラブル 精子が卵管まで進みづらい 精子の状態に関するトラブル 精子の通り道に関するトラブル 性交渉ができない
女性の場合

妊娠するのに必要な、排卵・受精・着床のステップのいずれかに原因があると考えられます。

排卵に関するトラブル
  • 排卵しづらい、または排卵が起こらない
    規則的な月経がある女性の場合、次の月経の約2週間前に「排卵」が起こります。しかし、無月経、多嚢胞(たのうほう)性卵巣症候群、甲状腺の病気などが原因で、排卵しづらかったり、排卵が起こらない場合があります。
受精に関するトラブル
  • 卵管がふさがっている
    卵子と精子が出会う通り道である卵管が、炎症などによってふさがっていると妊娠が起こりません。卵管の炎症の原因となるクラミジア感染症にかかったことがある方の場合、無症状のうちに卵管がふさがっていることがあります。また、子宮内膜症によって卵管周囲の癒着(ゆちゃく)が起こり、卵子をピックアップすることができないこともあります。
精子の輸送に関するトラブル
  • 精子が卵管まで進みづらい環境
    子宮の入口である頸管から分泌される粘液の量が不足している状態では、精子が子宮へと侵入しにくいため、妊娠しづらくなります。また、精子を攻撃する抗体(抗精子抗体)を持つ女性の場合、精子の運動性が失われ、卵子との出会いがさまたげられます。また、受精を障害することもあります。
着床に関するトラブル
  • 受精卵がうまく着床できない状態
    子宮内膜が着床に適した状態になっていなかったり、子宮筋腫や子宮腺筋症などにより子宮内腔が変形していたり、過去の手術や炎症による癒着が子宮内にある場合などでは、受精卵がうまく着床できず、妊娠に至らないことがあります。
男性の場合

精子の状態や、性交渉・射精までの過程などに原因があると考えられます。

精子の状態に関するトラブル

精子をつくる機能に問題があり、精子がつくれない、精子の数が少ない、活発に動く精子が少ない、奇形の精子の数が多いといった状態である場合は、不妊の原因となります。

精子の通り道に関するトラブル

精巣上体炎などの過去の炎症により、精子が通るための道が途中でふさがっていると、射精できても精子は排出されません。

性交渉ができない

勃起障害(ED)、腟内射精障害など、性交を行っても射精できない場合があります。一般的にはストレスや妊娠への精神的なプレッシャーなどが原因と考えられますが、糖尿病などが原因であることもあります。

加齢による影響(男女とも)

男女とも、加齢によって妊娠する力/妊娠させる力が低下します。
女性は30歳を過ぎると自然に妊娠する確率は下がり、35歳を過ぎるとその傾向が顕著になります。これは、加齢による子宮内膜症などの病気の増加や卵子の質の低下などが原因と考えられています。
男性は女性に比べると加齢に伴う影響はゆっくりですが、40歳を過ぎると徐々に精子の質の低下が起こります。

加齢に伴う卵子と精子の変化

年齢を重ねるにつれて、卵子と精子の数や質が変化していきます。

卵子の数や質

卵子の元となる「原始卵胞」は胎児のときにつくられ、卵巣の中に蓄えられています。これが成熟して排卵されます。
この原始卵胞は新しくつくられることはなく、加齢に伴い数が減少していき、閉経時にはゼロに近い状態となります。

また、卵子は、病気やストレス、不規則な生活習慣などによって衰えが加速すると考えられていますが、治療によって増やしたり、若返らせたりできるわけではありません
また、卵子の老化と生まれてくる赤ちゃんの能力には関係がないので、不妊や妊活に関する不確かな情報に惑わされず、正しい知識を持つことが大切です。

卵子の数の変化

精子の数や質

精子は精巣という器官で生涯を通して作られ、古い精子と新しい精子が常に入れ替わり続けています。また、男性の場合は女性の「閉経」に相当する区切りはなく、女性に比べると加齢による影響はゆっくりです。
そのため、加齢に伴い1日に作られる精子の数は徐々に減少していきますが、60代、70代になっても妊娠させる力がすべて失われるわけではありません。

精⼦の数や運動率と不妊症の関連については明らかになっていない部分が多く、男性に不妊の原因があると推定される場合でも、その約40%は詳細な原因が不明といわれています。

不妊の検査と治療について

気になったら、まずは「不妊検査」から

不妊について心配になったら早めに検査・治療を受けること、そしてカップルで正しい知識を持つことが大切です。

不妊検査では、男女とも、まず基本的な検査(問診、内診・経腟超音波検査、血液検査など)を行い、大まかな原因を探ります。そこで問題が発見されたら、さらに子宮卵管造影検査、子宮鏡検査、精液検査などを行い、詳しい原因や重症度などを調べます。
検査により自分のカラダが妊娠できる状態なのか、何らかの病気にかかっていないかを確認できるとともに、将来、妊娠した際のリスクになる要因も調べることができます。

検査で妊娠しにくい原因が見つかれば、早めに治療することで自然妊娠のチャンスが拡大します。また、「今はまだ妊娠を希望していないけれど、いつかは子どもが欲しい」という場合でも、ブライダルチェックなどで自分とパートナーの健康状態を調べておくことも可能です。

基本的な不妊検査の内容

女性 内診・経腟超音波検査、子宮卵管造影検査、血液検査、性交後試験
など
男性 精液検査、泌尿器科的検査 など

不妊治療には、どんな方法があるの?

検査によって原因と重症度がわかったら、それに対応する治療を開始します。
不妊治療は、一般不妊治療と生殖補助医療に大きく分けることができます。
通常、一般不妊治療を一定期間行い、妊娠に至らない場合は、カップルの年齢やライフスタイルなどを考慮しながら、体外受精や顕微授精法といった生殖補助医療に移っていきます。

もともと、生殖補助医療は女性の卵管がつまっているときに用いられていましたが、最近は男性に不妊原因がある場合でも広く用いられるようになっています。早い妊娠を望む方の多くが、体外受精や顕微授精を選択する傾向にあるようです。

一般不妊治療

タイミング法 排卵日を予測して、性交のタイミングを合わせる方法。多くのカップルがこの方法から治療を始めます。
薬物治療 排卵が起こらない女性に対し、お薬を使って卵胞の発育、排卵を促す方法です。
人工授精 元気な精子を人工的に子宮内に注入し、精子が卵子と出会う確率を高める方法。「人工」とありますが、自然妊娠と同様、体内で受精が起こります。
手術 子宮周囲の癒着や子宮内膜症、子宮筋腫や卵管閉塞といった不妊の原因を取り除くために手術を行うこともあります。

生殖補助医療

取り出した卵子と精子を体外で受精させ、後日子宮内に受精卵を戻す方法です。他の治療法によって妊娠が得られない難治性の不妊症が対象となります。

体外受精 卵巣から卵子を取り出し、精子を入れたシャーレの中で受精させ、子宮に戻す方法。ある程度の精子がある方が対象となります。
顕微授精 精子を1匹取り出し、卵子に直接注入する方法。精子の数が非常に少ない方が対象となります。

男性が受ける治療

精子の数が少ない
運動性が悪い
ビタミン剤・漢方薬といったお薬を用いた治療や、精巣の周りの血行を改善する手術を行います。
精子の通り道(精管)に
トラブルがある
精管がふさがっているときは、精路再建術という手術を行います。
性交渉ができない お薬などを用いて改善します。

不妊治療を受けて、出産できる確率は?

2021年のデータでは、体外受精・顕微授精等の実施回数は約50万回、治療を受けて妊娠し、子どもが生まれた割合は8.60%(11.6人に1人)と報告されています
このように、治療を受ければ確実に妊娠・出産にいたるというわけではありません。また、年齢が高くなるとともに妊娠率、出産率は下がり、無事に子どもが生まれてくる割合は40歳で約10%、45歳では1%程度となります。「不妊治療を始めるなら早めに」といわれる理由がここにあります。
これらの状況を理解した上で、どの治療法を選んで、どこまで治療を続けるのか、パートナーと話し合って考えることが大事です。

※公益社団法人日本産科婦人科学会
2021年ARTデータブック:2021年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績
/ART 妊娠率・生産率・流産率 2021
(https://www.jsog.or.jp/activity/art/
2021_JSOG-ART.pdf)

生殖補助療法の治療成績(2021年)

※公益社団法人日本産科婦人科学会
2021年ARTデータブック:2021年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績
/ART 妊娠率・生産率・流産率 2021
(https://www.jsog.or.jp/activity/art/
2021_JSOG-ART.pdf)より一部改変

グラフの見方

このグラフは、生殖補助医療(ART)の治療成績を示しています。
生殖補助医療とは、体外受精・胚移植(IVF-ET)、卵細胞質内精子注入・胚移植(ICSI-ET)、凍結・融解胚移植などの不妊治療の総称です。
年齢が上がるにつれ、妊娠率・生産率が低下し、流産率が上昇することが分かります。

  • 妊娠率/総ET:全ての胚移植のうち、妊娠に至った割合
  • 妊娠率/総治療:全ての生殖補助医療のうち、妊娠に至った割合
  • 生産率/総治療:全ての生殖補助医療のうち、子どもが生きて産まれた割合
  • 流産率/総妊娠:全ての妊娠のうち、流産に至った割合

これからの不妊治療
基本治療の負担が原則3割に

不妊治療にはさまざまな方法がありますが、これまでは特定の検査やタイミング法、排卵誘発法といった特定の治療法に対して健康保険が適用されていました。

また、特定不妊治療にかかった費用については「特定不妊治療費助成事業」という助成制度があったものの、適用できない治療法や、所得や助成回数の制限などがありました。

そこで、2022年4月、体外受精など関係学会のガイドラインで有効性、安全性が認められた基本的な不妊治療や一部の医薬品への保険適用がスタートしました。

安心して不妊治療に取り組めるよう、保険適用される治療法や条件、対象者などについて把握しておきましょう。

保険適用される治療法

厚生労働省 不妊治療に関する最新情報【令和4年3月25日時時点】リーフレット
(https://www.mhlw.go.jp/content/000913267.pdf)を加工して作成

保険適用の条件
(体外受精・顕微授精の場合)

年齢制限・回数制限には経過措置があります。2022年4月2日~9月30日までの間に43歳になる方は、43歳になってからでも、同期間中に治療を開始した場合、1回の治療(採卵~胚移植までの一連の治療)に限り保険診療を受けることが可能です。

不妊治療と仕事を両立できる環境へ

働く人たちの不妊治療事情は?

多くのカップルにとって、仕事が充実している時期と不妊治療を考える時期は重なりがち。不妊治療のハードルを高くする理由のひとつに、仕事との両立の難しさがあります。
一般不妊治療がうまくいかずに体外受精や顕微授精のステップへ移行すると、かかる費用だけでなく、通院回数や1回あたりの病院滞在時間も増えます。地域によっては不妊治療を行う医療機関が限られているなど、自分の都合に合わせて予約を取るのが難しくなり、仕事を休んだり、早退したりする回数が多くなってしまうことも考えられます。

厚生労働省が不妊治療を受けたことがある人を対象に調査を実施したところ、治療のため仕事を休んだことがある男性は34.9%、女性は37.1%との結果になり、勤務先に不妊治療の支援がないという回答は男性61.8%、女性72.6%に及んでいます※。そのため、不妊治療はカップルで協力して取り組むものですが、心身にかかる負担は女性側がより大きく、4人に1人の女性が仕事と両立できずに退職を選んでいます。

※令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業「不妊治療の実態に関する調査研究」(最終報告書)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000766912.pdf

大切なのは、周囲の理解とサポート

仕事を続けながら治療を受けていることを職場に伝えていない、または伝える予定がない人は約58%という調査結果があります。不妊治療は、当事者にならないと「何をするのか、どんな負担があるのか」などの情報に接したり関心を持ったりする機会が少なく、周囲が理解しづらいかもしれません。そのことが「職場に知られたくない、言いづらい」と感じてしまう理由のひとつになっているのではないでしょうか。

※令和3年度 不妊治療を受けやすい
休暇制度等環境整備事業
「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」
(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/
pamphlet/dl/30l.pdf

厚生労働省では、不妊治療の保険適用とともに、理解促進のための情報提供、治療と仕事がむりなく続けられる職場づくり、過去に同様の治療を経験した人による寄り添い型ピア・サポートの拡大など、さまざまな取り組みを進めています。
子どもをほしいと願うすべての人たちが、ポジティブな気持ちで治療に取り組めるよう、妊娠・出産を考えるのはまだ先という方も、正しい知識や情報をキャッチして、みんなで支えあっていける未来を目指しましょう。

パートナーや周囲の人と一緒に、
不妊や治療法について考えてみよう。
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