Mint+のお役立ちコラム Vol.8
< 伊藤病院 吉原先生に聞く
女性に多い「甲状腺」の病気 >

このコラムでは、2022年5月24日に
Mint+×ABC HEALTH LABOの「食」からはじめる
女性の健康推進プロジェクトが開催した
オンラインセミナー「女性に知ってほしい!
あまり知られていない甲状腺のこと」において
参加者の皆さまから寄せられた疑問やお悩みについて、
伊藤病院 内科医長の吉原先生に解説していただきます。

監修:伊藤病院 内科医長 吉原愛先生

どんな病気なのか知っておこう

甲状腺の病気と症状

Q甲状腺ホルモンと女性ホルモンは同じものなのでしょうか?
A同じではありません。
それぞれ異なる場所で作られ、異なる働きを持ちます。

“ホルモン”という言葉は、普段あまり聞きなれないかもしれませんが、カラダの情報を伝えるたんぱく質です。甲状腺ホルモンは甲状腺で作られ、女性ホルモンは卵巣などで作られ、それぞれに異なる働きがあります。

甲状腺ホルモンにはカラダ全体の新陳代謝を促進する働きがあります。一方、女性ホルモンには「妊娠・出産の機能、そのためのカラダづくり」という役割があり、「エストロゲン〈卵胞(らんぽう)ホルモン〉」と「プロゲステロン〈黄体(おうたい)ホルモン〉」の2種類があります。

Q甲状腺ホルモンは一日の中で上がったり下がったりしますか?
A甲状腺ホルモンの中には、
一日の中で数値が大きく変動するものもあります。

人間のカラダには一日のリズムがあり、それぞれのホルモンの分泌量も一日の中で変動(日内変動)しています。甲状腺ホルモンには、3つのヨウ素を持つトリヨードサイロニン(T3)と、4つのヨウ素を持つサイロキシン(T4)の2種類があります。また、脳の下垂体という部分から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が、甲状腺を刺激し甲状腺ホルモン(T3、T4)の分泌を促す働きをしています。甲状腺機能の測定には遊離T3(FT3)、遊離T4(FT4)を測定します。FT3とTSHには⽇内変動があり、時間帯によっては異なる数値を⽰します。⼀⽅、FT4は⽇内変動が少ないのが特徴です。⼀回の検査数値だけでは、健康状態の判断はできないことがあります。

Q甲状腺の病気は遺伝しますか?また、かかりやすい体質はありますか?
A遺伝的な素因があってもなくても発症する可能性のある病気です。

甲状腺機能低下症の「橋本病」や甲状腺機能亢進症の「バセドウ病」は、甲状腺に対する自己抗体(自分のカラダを標的にする抗体)ができることで起こる「自己免疫疾患」とよばれる病気です。この自己免疫疾患は、複数の原因が積み重なって起こるといわれており、原因が分からないことがほとんどです。ただし、ご家族の中に甲状腺機能異常のある方がいる場合、体質を受け継ぐことで、そうでない場合よりも発症する可能性が少し高まるともいわれています。

Q甲状腺の病気とストレスは関係がありますか?
Aバセドウ病の発症や増悪に
ストレスが関係している場合もあります。

ストレスはさまざまな病気と関連があり、甲状腺の病気においては甲状腺機能亢進症のバセドウ病で発症や増悪にストレスが影響していると考えられています。一方、甲状腺機能低下症の橋本病ではストレスとの関係はないと考えられています。
日々の生活の中で、ストレスを溜めない・解消するために、自分なりの方法をいくつか持っておくと、健康維持に役立ちますよ。

Q甲状腺ホルモンの検査値が異常でも、症状がないこともありますか?
A潜在性甲状腺機能異常や甲状腺ホルモンの軽度異常では、
症状が出ないまたは気づかないこともあります。

甲状腺ホルモンは正常でも、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が異常値を示す場合を「潜在性甲状腺機能異常」とよび、ほとんど症状はみられません。また、甲状腺ホルモンが軽度低下または軽度亢進している場合では、症状に気づきにくいことも多くあります。

Q甲状腺機能異常があっても妊娠・出産は可能ですか?
A正しく治療を行えば、安全に妊娠・出産することができます。

バセドウ病などの甲状腺機能亢進症では、治療によって甲状腺機能を正常に維持すれば、問題なく妊娠・出産が可能です。ただし、治療薬のなかには頻度は少ないものの胎児に影響を与えるものもあり、場合によっては薬剤を変更しなければなりません。そのため、妊娠を希望している場合には、あらかじめ医師に伝えておきましょう。また、バセドウ病は産後に悪化することがあり、産後も定期的な受診が必要です。

また、妊娠や胎児の成長には甲状腺ホルモンが必要であるため、甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモンが足りない状況は不妊や流産、早産などの原因になりますが、内服治療で甲状腺ホルモンの量を調節すれば、甲状腺ホルモンが正常値の人と同じように妊娠・出産することができます。

Q甲状腺の病気と更年期障害で、見分け方や症状の違いを教えてください。
Aたとえば、ほてりの症状では
「継続するか、一時的か」などの違いがあります。

動悸やほてり、体重減少といった症状は、甲状腺機能亢進症でも更年期障害でもよくみられるため、中には混同されるケースもあります。症状の違いの一例として、甲状腺機能亢進症のほてりは継続するのに対し、更年期障害では一時的であるなどの見分け方があります。

甲状腺の病気を早期発見するために

Q甲状腺の病気では、何科を受診すればよいのでしょうか?
Aまずはかかりつけの内科を受診してみましょう。

甲状腺機能異常の症状は多様で、他の病気と似た症状も多いため、まずはかかりつけの内科を受診するのがよいでしょう。また、産婦人科でも検査を受けることができます。
かかりつけ医があると、身近な医師に健康に関することを相談でき、困ったときなどに頼ることができます。信頼できるかかりつけ医を見つけておくとよいでしょう。

Qどうすれば甲状腺の病気を早期に発見できますか?
医療機関を受診する目安となる症状はありますか?
A体調の変化や、健康診断の結果などで気になることがないか、
気をつけてみましょう。

甲状腺の病気を予防することは難しいものの、自分自身の体調の変化に気づくことが早期発見の大切な第一歩です。また、毎年の健康診断おいて、コレステロールの値や体重などが大きく変動していないかどうか気をつけながら検査結果を確認し、気になる項目があれば医師に相談してみましょう。

Q甲状腺の病気と間違われやすい病気はありますか?
A甲状腺の病気で起こる症状はさまざまであり、
更年期障害以外にも判断が難しい病気は多くあります。

甲状腺機能亢進症とよく間違われやすいのは更年期症状です。また、甲状腺機能亢進症の方で、食事がとれず体重が減少し、さらに下痢などを伴う状態では、胃腸の病気を疑い消化器内科を受診されたり、受診した医療機関で胃腸に関する検査を実施されることもあります。
一方、甲状腺機能低下症の方では、強いむくみが生じることがあるため腎臓の病気を疑われたり、筋肉痛の症状から神経内科や整形外科を受診されることもあるようです。
甲状腺の病気で起こる症状は多様であり、どの病気かご自身で判断できないときはかかりつけの内科に相談しましょう。

Q健康診断のオプションとして
定期的に甲状腺検査を受けたほうがよいでしょうか?
Aまずは健康診断などの機会で検査し、
異常がないかチェックしてみましょう。

たとえば橋本病は女性の10~15人に1人の頻度であるといわれているなど、甲状腺機能異常は女性に多い病気です。そのため、できれば一度、甲状腺に関する検査を健康診断の機会などで受けていただき、そこで異常などがあれば、毎年検査することをお勧めします。

甲状腺の病気とうまく付き合うためのセルフケア

Q甲状腺の病気で、制限したほうがよい食品はありますか?
A甲状腺機能が低下している方では
ヨウ素を多く含む食品をとり過ぎないようにしましょう。

橋本病など甲状腺機能が低下している方の食事おいて、最も気をつけていただきたいのは“ヨウ素のとり過ぎ”ですが極端に制限する必要はありません。ヨウ素は昆布に多く含まれていますので、昆布を多く食べ過ぎないように気をつけましょう。のり、わかめは含まれるヨウ素量は多くないので、制限はとくに必要ありません。また、ヨウ素系のうがい薬にもヨウ素が含まれています。普段は水でうがいし、ヨウ素系のうがい薬は必要なときのみ使用するなど、あまり頻繁に使用しないようにしましょう。
一方、バセドウ病とヨウ素の摂取量はあまり関係しないことが分かっています。
また、魚の摂取量については特に制限はありません。豆乳については、ヨウ素欠乏症のある方で大豆食品を大量に摂取すると甲状腺ホルモンが低下するという報告がありますが、通常の摂取量では影響はありません。

Q紫外線アレルギーで日光に当たることを制限されています。
甲状腺の病気にかかる心配はありますか?
AビタミンDの合成のために日光に当たることは効果的ですが、
食品やサプリメントで補っても問題ありません。

ビタミンDは細胞の増殖や⽣体防御機能、炎症、免疫など、⼈体のさまざまな機能の調節にかかわる栄養素で、⽇本⼈における⽋乏/不⾜者の割合は、男性:72.5%、⼥性:88.0%にも達すると報告されています。甲状腺疾患を含めた⾃⼰免疫疾患とビタミンD⽋乏との関連を⽰した報告もあります。このビタミンDは“太陽のビタミン”とも呼ばれ、日光に当たることで合成されます。
しかし、必ずしも日光に当たらなければならないというわけではありません。日焼けを気にする方や、紫外線アレルギーがあるなど、日光になかなか当たりにくい方は、食品やサプリメントを取り入れ、ビタミンD不足を補うとよいでしょう。

吉原先生からのメッセージ

甲状腺の病気について、病気の名前を聞いたことはあってもどういった病気なのかよく知らない方も多いかもしれません。今回のオンラインセミナーやこのコラムの内容が、みなさんの日々の健康の一助になればと思います。

監修医のご紹介

吉原 愛先生吉原 愛先生

吉原 愛先生

Profile

よしはら・あい/伊藤病院 内科医長

2000年 広島大学医学部卒業。2000年~2002年 国立病院機構東京医療センターでの臨床研修を経て、2002年 東京女子医科大学 内分泌内科へ入局。2009年 東京女子医科大学 内分泌内科助教、学位取得。2010年から伊藤病院勤務、2017年から伊藤病院医長を務める。2020 年日本甲状腺学会 七條賞受賞。
学会
日本内科学会認定総合内科専門医
日本内分泌学会認定内分泌代謝専門医、指導医、評議員
日本甲状腺学会認定甲状腺専門医、評議員
日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
米国甲状腺学会 Active Member
 ATA Trainees and Career Advancement Committee 委員
 ATA Diversity, Equity and Inclusion Committee 委員
アジア・オセアニア甲状腺学会 Active Member

甲状腺の病気は、自分自身の
体調の変化に
気づくことが
早期発見の第一歩なんだね!
気になる症状があれば、
医師に相談してみよう。

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