Mint+のお役立ちコラム Vol.6
< 産婦人科医 吉村先生から学ぶ
~「妊活」「不妊」の気になるハナシ~ >

このコラムでは、2021年3月17日に開催した、
女性のための健康ラボMint+主催
「不妊かな?とおもったら聞いてみよう!
~森三中 大島美幸さんと産婦人科医 吉村𣳾典先生が
語るオンラインセミナー~」において、
参加者の皆さまから寄せられた
「不妊」に関する疑問やお悩みについて、
吉村先生に解説していただきます。

監修:慶應義塾大学名誉教授 吉村𣳾典先生

みんなで考えよう!

※本コラムに掲載した検査や治療に関する情報は、各医療機関によって異なる場合があります。

妊活の準備

Qすぐに結婚や妊娠の予定がなくても自分が妊娠可能かどうかを調べる方法はありますか?
A妊娠・出産に関する検査は産婦人科などでいつでも受けることができます

結婚や妊娠の予定に関わらず、妊娠・出産に関する検査はいつでも受けることができます。血液検査や性感染症検査、女性ホルモンに関する検査、内診・超音波検査などにより、妊娠・出産が可能な状態か、妊娠・出産に影響を与える可能性のある子宮筋腫や子宮内膜症などといった病気が潜んでいないか、などを調べます。
妊活・不妊治療のために初めて産婦人科を受診する女性が多くいらっしゃいますが、妊娠を希望する前から将来の妊娠に向けた健康ケアを意識することはとても大切です。特に、若い頃から月経周期が不規則だったり、月経痛が強い方は、早めに産婦人科を受診することをおすすめします。いますぐに結婚や妊娠の予定がない方でも、将来のために、一度は検査を受けるようにしましょう。
これらの検査は、実施している施設によって「プレコンセプションケア」、「ブライダルチェック」、「妊活チェック」、「プレママ健診」など、さまざまな名称で呼ばれています。産婦人科などで受けることができますので、お近くの医療機関を探してみてはいかがでしょうか。

プレコンセプションケアとは

妊娠・出産を母子ともに無事に迎えるためには、妊娠の前から健康ケアを行うことが大切です。このような将来の妊娠を意識した女性やそのパートナーの健康ケアを「プレコンセプションケア」と呼び、近年その重要性が高まってきています。
プレコンセプションケアでは、健康的な生活習慣を身につけたり、葉酸を含むサプリメントを摂取したりすることがすすめられます。また、月経周期の乱れや性感染症、その他の婦人科疾患がある方では、あらかじめ適切な治療を受けておくと、妊娠したい時期と治療時期が重ならずにすむこともあります。詳しくは、産婦人科医へご相談ください。

Qもうすぐ30代になりますが、いつか出産したいと考えています。今からできる体のケアを教えてください
Aまずは、健康的で規則正しい生活習慣を身につけることが大切です

将来の妊娠に備えるために最も大切なのは、「健康的で規則正しい生活習慣を身につけること」です。
適切な食事・運動、質の良い睡眠を心がけましょう。また、痩せすぎ・太りすぎを防ぐために適度な体重コントロールを意識することも必要です。過度なダイエットは避け、必要なエネルギーや栄養素をしっかり摂取するために、バランスの良い食事を3食きちんととるようにしましょう。

Q月経に関わる諸症状は不妊の原因と関係があるのでしょうか?
A不規則な月経周期や強い月経痛は、不妊の原因となることがあります

月経周期が不規則な方や、月経痛が強い方は、不妊の原因が月経に関連する病気に関わっている可能性があります。
規則的な月経がある女性の場合、月経の約2週間前に「排卵」が起こっています。しかし、希発月経や無月経の方は、排卵しにくかったり、排卵が起こらなかったりするため不妊となることがあります。
また、月経痛が強い方には子宮筋腫や子宮内膜症といった病気が隠れている可能性があります。子宮筋腫などにより、子宮内腔が変形するなど子宮内膜が着床に適した状態になっていないと、受精卵がうまく着床できず妊娠できないこともあります。
月経周期が不規則な方や、月経痛が強くてつらい方は、早めに産婦人科を受診し適切な治療を受けることをおすすめします。不規則な月経周期や強い月経痛と不妊の関係を知り、適切な治療を受けることで、月経に関する悩みが解消されるだけでなく、将来の不妊を防ぐことができるかもしれませんよ。

Q妊活を始めるにあたり「正しい情報」を得るにはどのようにすればいいでしょうか?
Aインターネットでの情報収集に加えて、不妊症の専門家が執筆した本を読むことをおすすめします

今ではインターネットを通してさまざまな情報に手軽にアクセスできるようになりました。そのおかげで、多くの方がウェブサイトの記事やSNSなどから妊活に関する情報収集をされています。しかし、インターネット上の情報は断片的であったり、誤った情報がまぎれていたりすることもあるという側面もあります。
そこで、不妊に関する正しい情報を得るためにおすすめなのはアナログな方法ですが、“本を読む”という方法です。不妊症の専門家が執筆した、不妊症の原因から検査、妊活や不妊治療の方法など、妊活・不妊に関する一連の情報が順序だててまとめられている本を1~2冊読むことで、正しい情報を得ることができると思います。
本に掲載されている情報への疑問や、もっと深く知りたいことがあれば、産婦人科医に相談してみましょう。また、本サイトの「Mint+のお役立ちコラム Vol.5 <産婦人科医 吉村先生から学ぶ ~パートナーと知りたい「不妊」の基礎知識~>」でも不妊について詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

Q妊活中の食事や日常生活で気をつけることはありますか?
Aやせすぎ・太りすぎにならないよう注意しながら、バランスの良い食事を3食しっかりとるようにしましょう

妊活中は、特にバランスの良い食事を3食しっかりとることが大切です。太りすぎを防ぐため、体重をコントロールすることは大切ですが、やせすぎてしまわないよう過度なダイエットは避けてください。妊婦が栄養不足などでやせすぎてしまうと、生まれてくる赤ちゃんが低出生体重児となる可能性が高まるとされています。低出生体重児とは、2,500グラム未満の体重で生まれてくる赤ちゃんのことで、将来、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の発症リスクが高くなることが分かっています。
また、適度な運動も取り入れ、健康的で規則正しい生活習慣を心がけましょう。

産婦人科を味方につけよう

Q妊活・不妊治療を受けるにあたり、自分たちに合った病院の見つけ方やポイントを教えてください
Aまずは、職場や自宅からのアクセスを考慮して“通いやすい”病院を探すことをおすすめします

病院を探す際に、まずは職場や自宅からのアクセスを優先して考慮するとよいと思います。なぜなら、仕事を続けながら不妊治療を受けるカップルにとっては、継続して通うことができるということが必須条件になるためです。病院の所在地だけでなく診療日時も調べ、仕事が終わってからでも受診できるか、土日でも診察しているかどうかなど、お二人にとっての“通いやすさ”をチェックするようにしましょう。
無理なく通える範囲内に病院が見つかったら、その病院の治療イメージを得るため、治療内容や治療成績を確認しておくことをおすすめします。
また、複数の病院が候補にあり、どこに通うか選ぶのが難しいときには、「ピアカウンセリング」を活用することも有用です。「ピアカウンセリング」とは、同じ背景や悩みを持っている人同士が、悩みや不安を話し合うことで、自身の気持ちや願いに向き合うことができるようになるという手法です。迷った時には、不妊で悩んでいる方同士で話し合ったり、情報交換したりするのもよいでしょう。「ピアカウンセリング」についてご興味がありましたら、ぜひインターネットなどで調べてみてください。

Q不妊治療は遠隔でも受けることができますか?
A不妊治療の検査や治療の中には、遠隔で受けることができないものもあります

不妊治療に関する相談や、検査結果の説明、一部の治療は遠隔治療(オンライン診療)でも受けることができます。しかし、不妊治療では、血液検査や超音波を用いた検査、人工授精や体外受精など、遠隔では実施できない検査・治療については、実際に通院していただかなければ受けることができません。日本では、不妊治療を行っている病院が比較的普及していますので、まずは通院できる範囲で病院を探してみてはいかがでしょうか。

Q病院は専門用語が飛び交っていて不妊に関する知識がないまま受診するのをためらってしまいます
A受診をためらわないでください
専門用語や分からないことはどんどん質問してください

患者さんが医療の専門用語を理解できないのは当然のことですので、ためらうことなく受診していただいて大丈夫です。ご本人が理解・納得した上で、治療を受けることが大切ですので、分からない専門用語や治療に関する疑問・質問があれば、納得できるまで主治医や医療スタッフに質問して構いません。むしろ、そうしていただくことで治療に対する不安が解消され、安心して治療にのぞむことができます。
また、妊活や不妊治療ではご本人の希望や悩みを主治医に打ち明けられる状態が理想的ですが、主治医と患者さんの間にも“相性”があるのは事実です。もし、「相性が良くないかな?」と感じる場合は、別の病院を探すことも考えてみてください。

Q流産と甲状腺ホルモンにはなにか関係があるのでしょうか?また、甲状腺に関する検査はどこで受けられますか?
A甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症などがある場合、不妊や流産につながる可能性があるとされています

甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症などがみられると、不妊との関係や流産のリスクが上昇するといった報告があります1)。甲状腺に関する検査は、どの病院でも受けることができますので、流産の経験がある方や、甲状腺に関する病気や症状に心当たりのある方は、かかりつけ医に相談してみましょう。もちろん産婦人科での受診も可能ですので、一度、検査してみてはいかがでしょうか。

1) 吉原 愛. 内分泌甲状腺外会誌, 35(4):268-271, 2018.

Q不妊治療には高額な費用がかかるのでしょうか?また、国が提供する不妊治療に関する助成制度についても教えてください
A不妊治療は保険適用外であるため費用が高額になることもあります
特定不妊治療を行う方は、国からの助成を受けることができます

不妊治療には、保険が適用される治療法と、適用されない治療法があり、例えば体外受精や顕微授精などは現在保険適用外となっています。そのため治療内容によっては、費用が高額になることもあります。治療費の詳細については各医療機関のウェブサイトなどに掲載されていますので、一度ご覧になってみてください。
特に費用がかさみがちな特定不妊治療(体外受精と顕微授精)については、国が提供する「不妊に悩む方への特定治療支援事業」という助成制度を利用することができます。この助成制度は、以前は所得制限が設けられていましたが、現在では撤廃されていますので、特定不妊治療を受けるすべての方が受給することができます。また、助成額や回数についても拡充されました。詳しくは、厚生労働省のウェブサイトをご覧ください。

周囲との関わりかた

Q働きながら妊活・不妊治療をすることは可能でしょうか?また、職場や周囲との関わりかたにおいて、気をつけることなどはありますか?
A通院と仕事の調整などが必要になることもあります
職場の理解を得るなどの工夫をしましょう

不妊治療を受けている方の中には、通院回数の多さや通院と仕事の調整、精神的な負担などから仕事との両立が難しいと感じる方も少なからずいらっしゃいます。不妊治療は女性ホルモンの周期に合わせて行いますが、周期は常に一定ではないため、通院回数が多くなったり、急な通院が必要になったりすることがあります。また、通院予定日に重要な仕事が入ってしまったりすることもあるでしょう。時には、急な通院に加えて、パートナーとの通院が必要になることもあり、二人のスケジュールを合わせられないこともあるかもしれません。
そのような状況で、職場に不妊治療を受けていることを知られたくない、あるいは打ち明けづらいために、仕事を辞めることを考える方も多くいらっしゃいます。
しかし、一旦仕事を辞めてしまうと、不妊治療のことを一日中考えてしまいストレスが増大してしまうというケースが多くみられます。仕事があるということは、気分転換ができるというメリットにもつながります。仕事を辞めることなく妊活・不妊治療を続けるには、ご自身だけで全てをこなそうとせず、職場の理解を得ることも大切です。
不妊治療を受けることで家族や友人との関わりかたにも変化があるでしょう。不妊治療を受けていること、その悩みやつらさを家族や友人に話すことで、心の支えとなり前向きな気持ちが得られます。一方で、周囲からの何気ない応援の言葉ですらプレッシャーに感じてしまったり、既に子供を授かっている友人との会話がつらいと感じてしまったり、様々な気持ちが交錯することもあるかもしれません。そんなときは、第一にご自分の気持ちを大切にしてください。少しの期間、距離を取ることも決して悪いことではありません。
職場や周囲との関わりかたについて、主治医からもアドバイスできることがありますので、ぜひご相談ください。

ワンポイントアドバイス

“妊活・不妊治療と仕事の両立”は、国の政策でも重要なテーマとして取り上げられており、厚生労働省のウェブサイトには、不妊治療中であることを勤務先へ伝えることなどを目的とした「不妊治療連絡カード」や、各種相談先・問い合せ先などが掲載されています。もし、勤務先へ伝えづらい場合は、「不妊治療連絡カード」を使うこともおすすめです。また、相談窓口を開設している自治体もあります。
妊活・不妊治療と仕事の両立を目指して、周囲の理解や協力を得るとともに、行政サービスも活用してみましょう。

Q不妊治療中にパートナーと良好な関係性を保つにはどうすればよいですか?
A不妊治療中の女性のつらさを男性が理解し、お互い支え合いながら不妊治療を受けるために、定期的にお二人で産婦人科を受診することをおすすめします

不妊治療は“ふたりで考えふたりで受けるもの”とはいえ、女性のほうが負担が大きいという事実は否めません。「自分ばかりがつらい思いをして治療を受けている」という気持ちをパートナーにぶつけたくなる女性もおられるでしょう。女性が前向きに不妊に向き合い治療を受けるためには、男性の理解が大変重要であり、欠かすことができません。
男性の理解を深めるには、検査や治療の初期だけでなく、定期的に一緒に産婦人科に来院していただくことをおすすめします。女性がどのような治療を受けているのか、どのようなつらさや気持ち、悩みを抱いているのかを知っていただくよい機会になるためです。
男性が女性に寄り添い、お互い支え合いながら、不妊治療を二人で乗り越えていただきたいです。

吉村先生からのメッセージ

不妊治療の進歩によって、これまで多くの不妊に悩むカップルが子どもを授かることができるようになりました。
しかし、不妊治療には病院の選び方や治療にかかる費用、仕事との両立、パートナーや周囲との対人関係など、数多くの悩みが付きまといます。これらの悩みで苦しんでいる方は、ぜひ産婦人科医にも頼っていただけたらと思います。
子どもを望むカップルが心健やかに妊娠・出産を迎え、子育てができるような社会の実現に向けて、皆さんと共に頑張っていきたいと思っています。

監修医のご紹介

吉村 𣳾典先生吉村 𣳾典先生

吉村 𣳾典先生

Profile

よしむら・やすのり/慶應義塾大学名誉教授 福島県立医科大学副学長
あすか製薬株式会社社外取締役

1975年 慶應義塾大学医学部卒業。米国留学等を経て95年より同大学医学部産婦人科教授、現在は同大学名誉教授。日本産科婦人科学会理事長等、数々の学会理事長を歴任。2012年に女性と子どもの未来を考える一般社団法人「吉村やすのり 生命(いのち)の環境研究所」を設立。第2次~第4次安倍内閣で内閣官房参与として少子化対策・子育て支援を担当。これまで3千人以上の不妊症、5千人以上の分娩など数多くの患者の治療を担当。福島県立大野病院問題の解決、HPVワクチンの公的助成や特定不妊治療費助成制度の確立、周産期医療従事者の待遇改善、出産育児一時金や妊婦健診の公的助成の増額など、わが国の周産期医療の危機を救い、女性の健康力増進に貢献。『生殖医療の未来学―生まれてくる子どものために―』など、生殖医学に関する著書多数。

よしむら・やすのり/慶應義塾大学名誉教授 福島県立医科大学副学長
あすか製薬株式会社社外取締役
1975年 慶應義塾大学医学部卒業。米国留学等を経て95年より同大学医学部産婦人科教授、現在は同大学名誉教授。日本産科婦人科学会理事長等、数々の学会理事長を歴任。2012年に女性と子どもの未来を考える一般社団法人「吉村やすのり 生命(いのち)の環境研究所」を設立。第2次~第4次安倍内閣で内閣官房参与として少子化対策・子育て支援を担当。これまで3千人以上の不妊症、5千人以上の分娩など数多くの患者の治療を担当。福島県立大野病院問題の解決、HPVワクチンの公的助成や特定不妊治療費助成制度の確立、周産期医療従事者の待遇改善、出産育児一時金や妊婦健診の公的助成の増額など、わが国の周産期医療の危機を救い、女性の健康力増進に貢献。『生殖医療の未来学―生まれてくる子どものために―』など、生殖医学に関する著書多数。

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産婦人科の先生にも相談してみよう。

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